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25話 相性92%
しおりを挟む苦く衝撃的だった、アルバイト・デビューをようやく終えて…
フユメはロッカーを開け、上着を取って着ると、カバンを肩にかけた。
静かにロッカーの扉を閉めて、大きなため息を吐き、俯き加減でとぼとぼと会社を出ようとした時、平沢に呼び止められた。
「朝日君!」
「・・・っ?!」
落ち込んで疲れ切っていたが、カイリ以外のアルファはフユメにとっては畏怖の対象であることに変わりなく…
平沢の顔を見た途端、フユメは青ざめ緊張で身体を固くする。
怯えるフユメを見て、平沢は苦笑いを浮かべた。
「さっきは悪かった! まさかセンリさんに、あんな勘違いされるとは思わなくて…」
「勘違い?」
フユメが聞き返すと…
「ほら、オレがヒロキさんを口説いていると、思われただろう?」
「ああ…」
「オレとしては、君を口説きたくて、声をかけたんだけどね」
「僕をですか?!」
<でも、この人は確か… 最初、僕をオメガだとバカにしていた印象だったけど?>
思わずフユメは首をかしげた。
「君みたいな綺麗なオメガには、滅多に出会えないからさぁ!」
「・・・・・・」
何と答えて良いのか分からず、フユメは黙りこむ。
甘い声で褒めて、平沢は上手くフユメを丸め込もうとしているように見えたからだ。
「良ければ、この後一緒に食事にでも行かないか? その… オレ的には今日のお詫びも兼ねてなんだけど?」
お詫びと言いながら、フワフワとオメガを誘惑する、アルファのフェロモンが身体から立ち上る。
平沢がフユメに、性的な興味を持っているのは明らかで…
「それは…」
不思議と平沢のフェロモンを感じても、初めてホテルでカイリに会った時のように…
脳が痺れ身体中が熱くなり、発情してしまいそうな、激しい誘惑に囚われることは無かった。
<…ううわぁ~ 嫌だなぁ~! すごく気持ち悪い!!>
平沢のフェロモンが、フユメには不快に感じ、眉間に深いシワを寄せる。
「朝日君、どうかな?」
増々、平沢から放たれるフェロモンの量が多くなり…
「ど… どうか、お詫びとか気にしないで下さい! あれは事故みたいなものですし、僕も気にしないようにしますから」
<カイリさんのフェロモンなら、もっと濃厚で心地良くて… うっとりと泥酔したようになるのに… この人のフェロモンだと、まったく魅力的に感じないなぁ… これが遺伝子の相性92%との違いなのか?>
「そう言わずに… 朝日君?」
平沢はぐっ… と身体を近づけ、強引に押し切ろうとフユメの腕に触れた。
「平沢さん…」
腕に触れられ、フユメは背筋がゾッとして… 服の下の腕に鳥肌が立った。
「なぁ、良いだろう?」
「す… すみません、平沢さん! 今日は初めてのアルバイトだったので、とても疲れてしまって… 早く家に帰りたいので、ここで失礼します」
さっと平沢から離れて距離を取ると、フユメは頭をぺこりと下げて、オフィスを横切る。
「なっ… おい! 待てよ!」
平沢はもう一度フユメを、呼び止めようとするが… フユメは振り返らずに会社を出た。
大通りに出てから初めてフユメは振り返り、カイリの会社が入るビルを見上げた。
<ヒロキさんの旦那さんの、センリさんが平沢さんを威嚇した意味が分かる気がする…>
平沢から離れても…
怯えて震える身体を、自分で慰めるように、腕をごしごしとこすった。
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