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9話 難しい案件
しおりを挟むホテルのレストランで2人で朝食を食べた後…
食後のコーヒーを優雅に飲みながら、フユメはスマホをチェックした。
向かい側の席で、カイリもフユメと同じことをしている。
スマホの画面を見た瞬間、フユメは重大な案件をころっと忘れていたことに気が付き、顔から血の気が失せ真っ青になった。
「フユメ、どうかしたのか?」
スマホを見下ろしたまま、呆然と固まったフユメに、ただならぬ気配を感じカイリは心配そうに声をかける。
「…昨日、母に外泊する連絡をするのを忘れていて…」
<母さんから送信された、おびただしい数の… 僕を心配する… うわぁぁ~っ! どうしよう…?! どうしよう…?!>
ごく一般的な大学生ならば、母親もそんなに心配はしなかったのだが…
フユメの場合は、オメガの身体的特徴について重く受け止め、(昨日もその特徴のせいで、カイリととんでもないことになった)普段は慎重に行動することを心掛けていた。
そのためルーティーンを外れること無く、今までフユメは大学と自宅を行き来する以外は、ほぼ家に引きこもり生活を送って来た。
つまり、これまでのフユメは母に内緒で、無断外泊などしたことが無かったのだ。
<そもそも、泊りに行く友達も知り合いもいないし… 母さんに何の言い訳も出来ないよ! 僕自身、初対面のカイリさんと、楽しいおしゃべりをする前に、深い関係になるなんて夢にも思わなかったし!!>
「僕はオメガだから… 母さんは何かあったと、心配して…」
「確かに、昨日は私と何かあったわけだし… 君のお母さんの心配は、杞憂では無かったワケか… なるほど、これは厄介だな…」
自分の顎を指の背で撫でながら、カイリは宙を睨んだまま考え込んでしまう。
「・・・・・・」
考え込むカイリを見つめながら、フユメも考えに耽り黙り込む。
<いや… その前にカイリさんは、これから僕とお付き合いする気があるの?!
一晩限りのお遊びだったとか? …まさか僕をセフレにするとか?! カイリさんがどんな性質の人か… 僕には、さっぱりわかんないよ?!>
「フユメは昨日、お母さんに何と言って、家を出て来たんだ?」
「昨日、母は彼氏とデートの日で… 僕の家は母子家庭だから、母はいつも仕事で忙しいし、デートの時ぐらい僕を忘れて楽しんで欲しくて、だから心配かけたくなくて、何も言わずに出て来ました」
心配する母への罪悪感で、フユメは涙目になる。
「なるほど、それでは心配されても仕方ないな… 昨夜はどれだけ遅くなっても、君を家に帰すべきだったな… 今頃、後悔しても遅いが…」
ジッ… とフユメを見つめながら、カイリに難しい顔をされ…
フユメはカイリに責められている気がして、視線を外しテーブルに置いたコーヒーカップを見下ろした。
「ごめんなさい…」
「いや、失念していた… 若いオメガを子に持つ親なら、それぐらいは当然なのに浅はかだった… フユメ、私の方こそ悪かった」
「・・・・・・」
フユメは顔を上げてカイリを見ると、眉間にシワを寄せて、さっきよりも険しい顔をしていた。
<何回も初めてのセックスをしたせいか… 僕はもうカイリさんが好きになっている… いっぱいエッチなことをしながら、変な話をして笑ったり… 恥かしがったり… 普段から僕は常に自分がオメガだと、他人に知られないよう、話す相手に警戒し身構えているから… あんな風に解放された気分で、誰かと話すの初めてだったし…>
人口の80%以上をしめるベータよりも、オメガとアルファの容姿は整っていて、華やかで目立つ美形が多いのは一般常識である。
それと同時に、オメガ相手のセックスはより強い快楽を得られることでも有名で…
そのためオメガは性犯罪の被害者になりやすい。
特に"番"のいない未婚のオメガは、ベータの男たちに集団で輪姦されたとか、何年も監禁されてオモチャにされたとか… そんな話は普通に聞くありふれた話だ。
「フユメ、とりあえずお母さんに無事だと連絡をしなさい!」
「え?! でも、昨夜のことは何て言えば良いのかわからなくて…」
ものすごく、厳しい顔をしていたカイリの顔に…
面白がっているような、笑みが浮かんだ。
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