上 下
3 / 51

2話 アルファ

しおりを挟む
「落ち着け、僕… 落ち着け、僕…」
<…だいたい、僕から先に相手に会いたいと選択したわけだし… ここで帰るのは人として失礼すぎるよね?!>

 大学入学時に母が買ってくれた、スーツの上着をキュッ… と引っ張っり、かたちを整えて気合いを入れた。

 待ち合わせ場所がどこか知り、自分なりの正装を着てみたが、やはり高級ホテルでは、何となく自分だけが浮いてしまっているような気がする。

「もう… 来ているのかなぁ? 20分前だから、まだかなぁ…?」
<実は50分前に着いて、今までホテルの前をうろうろして、時間をつぶしていたんだけどね… 待ち合わせ場所は、"ガーランドホテルの玄関ロビー"で… "アルファとオメガならすぐにお互い誰かわかる"とだけで、相手の特徴はほとんどわからない。
 僕が知っているのは、相手の年齢が僕より8コ年上で… 男性、名前は不明だけど、アカウント名は"Meer" それから遺伝子の相性が92%!>
 
 何人かフユメとヒットしたアルファはいたが… その中でもダントツで今日の待ち合わせ相手が、一番遺伝子の相性が良かったのだ。 

 実のところ、フユメはほとんどアルファに会ったことが無い。
 今までなるべく合わないように、アルファを避けて暮らして来たからだ。
 だからフユメの知識は、ほとんどネットで収集した情報ばかりだった。


「まだ、来ていないみたいだ…」
 ざっ… と玄関ロビーを見回してみたが、3人組のベータの女性たちがいるだけで… それらしき人物は、まだ見当たらない。
 
 どちらにしてもロビーの真ん中でボンヤリ立っていると、目立ってしまうから… 緊張を散らすために、フゥ―――ッ… と深呼吸をすると、とりあえずフユメは壁際にある長いすに向かって歩き出した。

 1歩、2歩と踏み出したところで、背中から何かしらの圧力のような気配を感じて、フユメはふと立ち止まりふりむく。
 玄関ロビーに敷かれた赤い絨毯じゅうたんのせいで、まったく足音が聞こえなかったが… スーツ姿でビジネスマン風の、かなり背の高い男性が、フユメに向かってまっすぐ歩いて来る。

「…うわぁ! カッコいい人… あの人が?」
<間違いない、あの人はアルファだ! あの人が僕の待ち合わせ相手?!>

 思わずフユメもつぶやいてしまうほど、目鼻立ちがはっきりしていて、短く切りそろえた黒髪をすっきりと後ろに流し… 一目で誰もが、美男子だと認めるであろう容姿をしていた。

 目が合うと相手に微笑まれ、フユメの顔はかあぁっ… と一気に熱くなる。

「やばっ!」
<本当にアルファだ! あの人が僕の"運命のつがい"になるかも知れない人?!>

 フユメがアルファを見たとたん、圧倒的な何かに襲われた。

「あっ…?!」
<ああ… 何これ…?! すごく良い匂い… あれれ…? これ… アルファのフェロモン?> 

 脳がしびれ… うなじがひどくうずいたと思ったら、背骨からじわじわと腰へと伝わり、下腹をヂクヂクと刺激する。

「…うああぁっ!」

「オイ! 大丈夫か、君?!」

 その人が目の前に立った時、アルファの圧倒的な存在感に、足がぐらぐらとして… フユメはその場で、ひざまずてしまいそうになる。

 ふらついたフユメの腰を、ギュッ… と相手が抱きよせて、あわてて支えた。


「嘘…! どうしよう… どうしよう… こんな時に! 嘘っ…」
<あれが来る! あれが!! やだよ…どうしよう、発情しちゃうよぉ!!> 


 フユメは初めて会ったアルファの腕の中で、発情してしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無職男性が居酒屋でイケメン旅人と相席したら

黎泉いろは
BL
とある沖縄の居酒屋で、2人の男性が出会ってから朝まで一緒に過ごすお話。お互いによく知らないけれど会った瞬間に何となく惹かれ合って、一夜限りの関係に。気弱な無職男性×爽やかイケメン一人旅男性。[R-18]※印は性描写あり

俺のスパダリはギャップがすごい 〜いつも爽やかスパダリが豹変すると… 〜

葉月
BL
彼女に振られた夜、何もかも平凡な『佐々木真司』は、何もかも完璧な『立花蓮』に、泥酔していたところを介抱してもらったと言う、最悪な状態で出会った。 真司は蓮に何かお礼がしたいと申し出ると、蓮は「私の手料理を一緒に食べていただけませんか?』と言われ… 平凡なサラリーマンもエリートサラリーマン。住む世界が違う二人が出会い。 二人の関係はどう変わっていくのか… 平凡サラリーマン×スパダリサラリーマンの、濃厚イチャラブストーリー♡ 本編(攻め、真司)終了後、受け蓮sideがスタートします。 エロ濃厚な部分は<エロス>と、記載しています。 本編は完結作品です٩(๑´꒳ `๑٩) 他にも何点か投稿しているので、もし宜しければ覗いてやってください(❃´◡`❃)

王太子の秘密儀式~父王にはめられた⁉

金剛@キット
BL
王太子アニマシオンは学園を卒業し成人の儀を終えた。その夜、国王に呼び出され、なぜか媚薬を盛られてしまい、秘密の儀式を受けるよう命令される。 国王に従い、アニマシオンは秘密の扉を開き地下にある“秘儀の間”へ行くと… そこには美しい裸体をさらしたオメガの少年が待っていた。 国王に媚薬を盛られたアニマシオンは獣のように発情し、名前も知らないオメガの少年を、本能のまま抱き“番”にしてしまう。 少年の名はカジェ。王国にたった一人しか存在しない大賢者の弟子だった。 😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。 😡エロ濃厚です! ドスケベが嫌いな方には向かないお話です。ご注意を!

ボクのパパは、とっても可愛い。

そらも
BL
とあるお家に住んでいる二人っきりの仲良し家族である高校一年生十五歳なボクと会社員三十四歳なパパとの、とっても素敵でとっても愛がたっぷりな日常のひとコマストーリー♪ つまりは、パパに激重愛感情ぶつけまくりなしたたか息子くん×けっこうダメダメなところ多しだけど息子大好きなほわほわパパとの近親相姦えろえろ話でございます♡  息子×実父に加え、受けのパパの方が体格良しおなのでそこのところどうぞよろしくです! あと作中で相手側に問題があるとはいえ、息子くんが実母であるパパと離婚したママのことを中々に悪く言っておりますのでそこもどうぞご注意を。 ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

『田中のおじさま♡』~今夜も愛しのおじさまと濃厚ラブえっち♡♡♡

そらも
BL
過去にとある出逢いを経て知り合った『本名さえもちゃんとわかってない』自分よりも三十二歳も年上のバツイチ絶倫変態スケベおじさまとの濃厚セックスに毎夜明け暮れている、自称平凡普通大学生くんの夜のお話♡ おじさまは大学生くんにぞっこんラブだし、大学生くんもハジメテを捧げたおじさまが大大大っだ~いすきでとってもラブラブな二人でございますぞ♪ 久しぶりの年上×年下の歳の差モノ♡ 全体的に変態ちっくですのでどうぞご注意を! ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

生意気オメガは年上アルファに監禁される

神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。 でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。 俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう! それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。 甘々オメガバース。全七話のお話です。 ※少しだけオメガバース独自設定が入っています。

処理中です...