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19話 公爵夫人の入れ知恵 公爵夫人side
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エンプハル公爵家、公爵夫人の私室で… 公爵家の三女アオラは優雅に小指を立てて、母親がブレンドさせた特別なお茶を飲んでいた。
「ふふふっ… お母様のお茶は、本当に美味しいわ…」
「そうね、あなたが嫁ぐレセプシオン伯爵家にも、このお茶のブレンドの比率を伝えておかないとね」
「・・・っ」
公爵夫人が伯爵家の名を口に出したとたん、アオラの顔が強張った。
その様子を見て、公爵夫人はため息をつく。
2日前、レセプシオン伯爵家に呼び出された後から、アオラの様子がずっとおかしく、公爵夫人はアオラが何かミスを犯したことを確信していた。
だが… アオラ本人はそのことについて、自分からは何も言わないので、夫人は無理やりにでも聞き出そうと決めたのだ。
ティーカップを皿にのせ、公爵夫人はローテーブルに置く。
「アオラ、正直に話しなさい! あなた、レセプシオン伯爵家で何をしたの?」
「そ… それは、お母様… 別に何も無いわ!」
母親の目から見て、アオラが動揺しているのは明らかだが、やはり何も言おうとはしない。
「そんなことは無いでしょう?」
レセプシオン伯爵家のサリダという婚約者がいる身で… アオラはすでに不貞を犯し、そのうえ愛人と“番の契り”まで交わしているのだから、きっとそのことに関係する何かがあるはずだわ…
公爵夫人はアオラが犯した愚かな行為を、アオラ本人の告白を聞き知っていた。
だが、伯爵家から婚約破棄され、アオラが修道院へ送られるのを避けるため… 娘可愛さに公爵夫人は、もしも伯爵家に不貞について追及された時の対処法として、『サリダに無理やり番にされた』 …と公表すると、脅しをかけ交換条件で契約結婚を受け入れさせるようにと、入れ知恵をしたのだ。
後は3年ほどで離婚し、アオラは公爵家へ戻る。
それならレセプシオン伯爵家は、婚約を命令した王弟殿下の顔をつぶすこともなく… アオラは不貞を上手く隠すことが出来る。
公爵夫人はそんな筋書きを、公爵には内緒で考えていた。
厳格な性質の夫の公爵がアオラの不貞を知れば、公爵家の不名誉となるふしだらな娘を置いてはおけないと… 即刻、修道院へ送られることはわかっていたからである。
そんな事情があったため、公爵家が伯爵家と交渉することは無く、仕方なく公爵夫人は、アオラ自身にその交渉をさせようとした。
「アオラ? 小さな子供のように黙っていてはだめよ? 伯爵家で何があったか話しなさい!」
「ですから、あの人が… サリダがとても無礼だったから、私…」
ローテーブルに置いたティーカップのふちを細い指先でなぞりながら、アオラはもじもじと口を開いた。
アオラの話をすべて聞き終え、公爵夫人は頭を抱える。
「つまりあなたは怒りにかられて、サリダを挑発し激怒させたというのね? 穏やかに契約結婚を持ちかけずに…?」
ああ、私はこの娘の育てかたを、間違えてしまったようだわ!
上の2人の娘(オメガ)は、降嫁した母親から王家の血を、父親から公爵家の血を引く娘だからと、2つの血に恥じないよう誇りを持って、厳しく躾けて育て… 長女は隣国の王族へ嫁ぎ、次女は王国の西側を守護する、重要な役割を持つ侯爵家へと嫁がせた。
だが三女のアオラは、子供の頃から身体が弱く、公爵夫妻は甘やかして育て…
『アオラは好きな人と結婚して良いのよ』 …などと、後から考えればとても、無責任な話を聞かせていた。
実際にアオラは、婚約が決まった後で、それまで付き合っていたヌブラド伯爵家のフリオと“番の契り”を交わしてしまう。
公爵夫人が娘のために良かれと思ってしたことが、すべて娘の愚かさで、最悪の事態に進んでいるように見えた。
「ふふふっ… お母様のお茶は、本当に美味しいわ…」
「そうね、あなたが嫁ぐレセプシオン伯爵家にも、このお茶のブレンドの比率を伝えておかないとね」
「・・・っ」
公爵夫人が伯爵家の名を口に出したとたん、アオラの顔が強張った。
その様子を見て、公爵夫人はため息をつく。
2日前、レセプシオン伯爵家に呼び出された後から、アオラの様子がずっとおかしく、公爵夫人はアオラが何かミスを犯したことを確信していた。
だが… アオラ本人はそのことについて、自分からは何も言わないので、夫人は無理やりにでも聞き出そうと決めたのだ。
ティーカップを皿にのせ、公爵夫人はローテーブルに置く。
「アオラ、正直に話しなさい! あなた、レセプシオン伯爵家で何をしたの?」
「そ… それは、お母様… 別に何も無いわ!」
母親の目から見て、アオラが動揺しているのは明らかだが、やはり何も言おうとはしない。
「そんなことは無いでしょう?」
レセプシオン伯爵家のサリダという婚約者がいる身で… アオラはすでに不貞を犯し、そのうえ愛人と“番の契り”まで交わしているのだから、きっとそのことに関係する何かがあるはずだわ…
公爵夫人はアオラが犯した愚かな行為を、アオラ本人の告白を聞き知っていた。
だが、伯爵家から婚約破棄され、アオラが修道院へ送られるのを避けるため… 娘可愛さに公爵夫人は、もしも伯爵家に不貞について追及された時の対処法として、『サリダに無理やり番にされた』 …と公表すると、脅しをかけ交換条件で契約結婚を受け入れさせるようにと、入れ知恵をしたのだ。
後は3年ほどで離婚し、アオラは公爵家へ戻る。
それならレセプシオン伯爵家は、婚約を命令した王弟殿下の顔をつぶすこともなく… アオラは不貞を上手く隠すことが出来る。
公爵夫人はそんな筋書きを、公爵には内緒で考えていた。
厳格な性質の夫の公爵がアオラの不貞を知れば、公爵家の不名誉となるふしだらな娘を置いてはおけないと… 即刻、修道院へ送られることはわかっていたからである。
そんな事情があったため、公爵家が伯爵家と交渉することは無く、仕方なく公爵夫人は、アオラ自身にその交渉をさせようとした。
「アオラ? 小さな子供のように黙っていてはだめよ? 伯爵家で何があったか話しなさい!」
「ですから、あの人が… サリダがとても無礼だったから、私…」
ローテーブルに置いたティーカップのふちを細い指先でなぞりながら、アオラはもじもじと口を開いた。
アオラの話をすべて聞き終え、公爵夫人は頭を抱える。
「つまりあなたは怒りにかられて、サリダを挑発し激怒させたというのね? 穏やかに契約結婚を持ちかけずに…?」
ああ、私はこの娘の育てかたを、間違えてしまったようだわ!
上の2人の娘(オメガ)は、降嫁した母親から王家の血を、父親から公爵家の血を引く娘だからと、2つの血に恥じないよう誇りを持って、厳しく躾けて育て… 長女は隣国の王族へ嫁ぎ、次女は王国の西側を守護する、重要な役割を持つ侯爵家へと嫁がせた。
だが三女のアオラは、子供の頃から身体が弱く、公爵夫妻は甘やかして育て…
『アオラは好きな人と結婚して良いのよ』 …などと、後から考えればとても、無責任な話を聞かせていた。
実際にアオラは、婚約が決まった後で、それまで付き合っていたヌブラド伯爵家のフリオと“番の契り”を交わしてしまう。
公爵夫人が娘のために良かれと思ってしたことが、すべて娘の愚かさで、最悪の事態に進んでいるように見えた。
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このお話の登場人物たちの命名は、スペイン語にお世話になりました。 デシル→言う。 騎士サリダ→出口。 婚約者フリオ→寒い。 サリダの婚約者アオラ→今。 デシルの友人ミラドル→展望台。 ミラドルの兄パルケ→公園。 今回も面白い響きの名前ばかりになりました(*´ω`)。覚えにくかったら、すみません! ◯命名センスが最悪なので、異世界モノのお話の時はいつも外国の単語からもらうことにしています☆彡
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