恋人たちの婚約者たち~真実の愛をつかむのはどっち⁈

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
9 / 47

8話 サリダの婚約事情3 サリダside

しおりを挟む

 結婚前に愛人との関係が嫁ぎ先のレセプシオン伯爵家に、知られてしまったというのに… 開き直ったアオラは応接間のソファに座り、優雅に小指を立ててお茶を楽しんでいる。

 オメガにしては度胸があると言えば、聞こえは良いが… むしろ、愚か過ぎて思慮しりょが足りない部類のアオラを見つめ、サリダはあきれながらどうしようかと悩んでいると… 不意にに気付いた。


「・・・っ???!」
 何かが、おかしい?! いくらアオラが私に興味が無くても、オメガなら微量のフェロモンを、常に放っているはずなのに… 目の前にいるアオラからは何も感じない?!

 
 抑制剤を飲んでいても、若いオメガは本人の意志に関係なく、本能的に“つがい”となる相手を探すために、アルファに向けて常に微量の誘惑フェロモンを放ち続けている。

 アルファの側も… 抑制剤を飲んでいても、オメガが放つ微量のフェロモンを感知することが出来るはずなのだ。
 実際、婚約式の時にサリダは、アオラのフェロモンを確かに感じていた。
 
 だが……
 アルファがオメガのフェロモンを、感知出来ない場合もある。
 そのオメガがすでに“つがいちぎり”を交わしていて、他のアルファの“番”となった場合である。

 オメガのフェロモンは“番”が出来ると変質し、“番”のアルファ以外は感知出来なくなるのだ。


 アオラがティーカップを、ローテーブルの皿の上に戻したタイミングで、サリダは話しかけた。


「アオラ、君はヌブラド伯爵家のフリオと“番の契り”を交わしているのだろう?」

「・・・っ!」
 ビクッ… とティーカップを戻した手を震わせ、アオラは顔を上げると向かい側の正面に座るサリダを見た。

「君からオメガのフェロモンを感じない、君は愛人に抱かれながら、うなじを噛ませ、“番”になったのだろう?」
 表面的には冷静に見えるが、サリダは内心では怒り狂っていたため、アオラに対してわざと意地悪な言い方でたずねた。

「あなたの勘違いよ!」
 アオラは自分を守るように胸の前で腕を組み、サリダをにらみつけた。
 
「確認のために私の父と… アルファの騎士を何人かここへ呼んで、君のフェロモンを感じるかを確認させても良いか? 君がうんと言うまで、何人ものアルファに依頼して、君からフェロモンを感じ取れるかを聞き回るが?!」

「そ… そんなことしても無駄よ!」

「何が無駄なんだ?! いい加減にしろアオラ!! 私と結婚したくないのだろう?! だったら認めるんだ、見苦しいぞ!!」
 その場で立ち上がり、サリダは大声で怒鳴った。

「怒… 怒鳴っても無駄よ! 私の“番”はあなただと言うから!」

「何だと?!」

「婚約者のあなたが嫉妬に狂って、私を無理やり“番”にしたと言うわ!!」

「嫉妬だと?! 誰がそんな話を信じると言うんだ?!」

「貴族はみんな信じるわよ! あなたは私の恋人フリオに嫉妬して、無理やり私を“番”にしたとね!! あなたが私の“番”ではないと証明できなければ、誰もが信じるわ!!」

「だが、結婚して私が君を抱けば、すぐに分かることだ!」
 激怒したサリダはにぎりしめたこぶしをぶるぶると震わせる。

 番以外のアルファを受け入れれば、オメガの身体は激しい拒絶反応を起こし、運が悪いと死亡することさえある。


「そうなれば、他のアルファに寝取られた妻と結婚した男だと、あなたは貴族たちにバカにされるでしょうね! ああ、楽しみだわ! 会うたびに私をバカにしていた男が、社交界の笑いものになる姿が見られるなんて!」
 アオラにとってもサリダとの婚約は不本意で… サリダが自分を嫌っていることも、知っていたのだ。
 
「なら、君を田舎の領地に一生幽閉する!」

「そんなこと、私の父や叔父様… 王弟殿下が許すはずないわ!」

 強姦してでもアオラを抱いて、サリダが“番”ではないことを証明し、公爵と王弟が認めなければ、アオラの言う通り幽閉は強い権力を持つ2人から、強い反発を受けることとなるだろう。

 自分とのセックスで死ぬかもしれない相手を、無理やり抱くような、騎士道に反する行いを、騎士職に誇りを持つサリダには、どうしても出来ない行為だった。

 何よりサリダは、大嫌いなアオラに触れたくもない。

「・・・っ」
 クソッ! この性悪女!! 最初からそのつもりで、愛人を作ったのか?! 本当に頭が空っぽではないことは、認めてやるよ!! だが、愚かで恥知らずなのは変わりない!

 怒りと屈辱くつじょくで、サリダはギリギリと歯ぎしりをする。


「あなたは私の言う通りにしていれば良いのよ! お話も終わったようですし、そろそろ失礼するわ」


 冷ややかに言い捨てると、アオラはソファから腰を上げ、優雅に応接間を出て行く。





しおりを挟む
このお話の登場人物たちの命名は、スペイン語にお世話になりました。 デシル→言う。 騎士サリダ→出口。 婚約者フリオ→寒い。 サリダの婚約者アオラ→今。 デシルの友人ミラドル→展望台。 ミラドルの兄パルケ→公園。 今回も面白い響きの名前ばかりになりました(*´ω`)。覚えにくかったら、すみません! ◯命名センスが最悪なので、異世界モノのお話の時はいつも外国の単語からもらうことにしています☆彡
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...