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1話 デシルの婚約事情
しおりを挟む王立学園に入学して以来、コンドゥシル男爵家の長男オメガのデシルは、婚約者のヌブラド伯爵家の長男アルファのフリオの態度が冷たくなり、何年たっても戸惑いを隠せずにいた。
学園内でもめったに人が来ない、日当たりの悪い小さな裏庭に婚約者のフリオを呼び出し… デシルは癖のある金色の前髪がパラパラとかかる、青紫色の瞳を上目づかいにして、もじもじと話しかける。
「呼び出してごめんね、フリオ」
「何の用だよ? オレは忙しいんだ、早く用件を言えよ! デシルはいつまで経っても愚図だな!」
「あ… ごめん! あのねぇ、フリオ… 今度の休日に友人の誕生日パーティーに招待されたけど、一緒に行ってくれる?」
学生でも貴族のパーティに招待されれば、婚約者がいるオメガは婚約者にエスコートされて参加するのが、貴族の常識である。
「オレはその日、友人と別荘へ行く予定なんだ」
「でも! 先月招待された、従兄弟の婚約パーティでも… 僕は1人で参加したから… これ以上、婚約者のフリオは欠席して僕だけ招待を受け続けると、僕たちは仲が悪いのかとみんなに誤解されてしまうよ? だから… フリオ!」
……と言うか、すでに僕たちの仲は最悪なのではないの? と感じているけど… でも僕はフリオと昔のように、もう一度仲良くなりたいから! だって学園を卒業したら僕たちは、結婚して“番の契り”を結ぶわけだし…
「そんなの… 言いたい奴には、言わせておけば良いさ!」
「でも、フリオ…」
1人で招待されれば、僕はまた婚約者に相手にされない惨めなオメガだと、陰でバカにされてしまうから… 婚約者の僕が他人にバカにされても、本当にフリオは平気なの?!
ムッ… とするフリオの顔を見て、デシルは自分が婚約者の機嫌を損ねてしまったと気づく。
こうなるとフリオは、聞く耳を持たなくなるのだ。
「今さらオレに友人との約束を、破れと言うのか?! パーティに招待されたことがそんなに大切なら、デシルがこんなギリギリになって言うから悪いんだ! 一緒に参加してほしいなら、もっと早く予定を伝えろよ!! オレにだって伯爵家の、大切な付き合いがあるんだからな!」
怒鳴り声をあげて、フリオは一方的にデシルを責めた。
「ご… ごめんなさい…」
それはフリオが同じ学園にいても『お前といると恥かしい』 …と言って、僕と会ってくれないから… 先週、手紙に書いてパーティの予定を伝えたのに、やっぱりフリオは僕が送った手紙を読んでないんだ?
「お前はいつも、謝れば済むと思ってないか?! そういうお前の卑屈な態度を見るとイライラするんだよ! なんでお前なんかが、オレの婚約者なんだ?!」
「・・・・・・」
それはフリオのお父様、ヌブラド伯爵が、商売上手な僕のお父様、コンドゥシル男爵と共同で事業を立ち上げて欲しくて、代わりに僕とフリオの婚約を申し込んで来たからでしょ?
僕のお父様が資金と知恵を提供し、両家の共同事業が成功したおかげで、フリオの伯爵家はいっきに裕福になったわけだし?!
フリオだって知っているはずだよね?!
デシルはたくさん言い返したかったが、フリオがもっと腹を立て怒り狂うと知っていたから… ギュッ… と拳をにぎりしめ、表情を見られないよう下を向き、賢く黙っていることにした。
「チッ! これだから、平民上がりの男爵のオメガなんて嫌なんだよ!」
「・・・っ」
何が悪いんだよ! 確かに僕のお父様は元平民だけど、自力で努力して、商売を成功させ、お金を稼いで没落しかけていた男爵家の令嬢だったお母様と恋に落ちて、恋愛結婚したんだぞ?! 今もラブラブなんだから!!
お金が欲しくて、僕と君を婚約させた、ヌブラド伯爵よりもずっと素敵じゃないか!!
君がはいてる、そのカッコいい自慢のブーツだって、僕のお父様が今も継続して共同事業に資金提供しているから、買えているんだぞ?!
カッ… と腹が立ったが、それでも聡明なデシルは、フリオのように怒りをあらわにせず、黙って下を向き侮辱に耐えた。
「とにかく… 今度の休日は忙しくてオレは、お前の友達のパーティには行けないから、わかったな!」
「うん……」
下を向いたまま、デシルは返事をした。
フンッ…! と面倒そうに鼻を鳴らし、フリオはその場にデシルを残し足早に去ってゆく。
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このお話の登場人物たちの命名は、スペイン語にお世話になりました。 デシル→言う。 騎士サリダ→出口。 婚約者フリオ→寒い。 サリダの婚約者アオラ→今。 デシルの友人ミラドル→展望台。 ミラドルの兄パルケ→公園。 今回も面白い響きの名前ばかりになりました(*´ω`)。覚えにくかったら、すみません! ◯命名センスが最悪なので、異世界モノのお話の時はいつも外国の単語からもらうことにしています☆彡
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