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1章~俺はダンジョンバイトがしたい
4 というわけでバイト探しにいくわけだが
しおりを挟む放課後、生徒会室へ行く裕一と、体育館へ行く橋元を見送り、俺は学校を後にする。
空は晴れ。最高のバイト探し日和だ。
あっちの世界がどんな天気か知らないが。
家に寄ってるとバスの時間に間に合わないので、いつものように制服のままバス停へと直接向かう。
バスに揺られて15分ほど。
向かうは異世界トワイヤの「扉」がある、世田谷区の住宅街。
公園で遊ぶ小学生達を横目に住宅街をバスが走っていくと、突然ぽっかりと開けた場所に出る。
当時は狭い空き地だったらしいが、きっと周囲に住んでいた人たちは不気味さから引っ越したのだろう、トワイヤ世田谷総合センターと書かれた建物と、だだっ広い駐車場がひろがっていた。
トワイヤ世田谷総合センターには二つ入り口があり、自動ドアがついてる方は役所みたいな感じになっている。
トワイヤで手に入る素材や魔石の換金、異世界に企業を立ち上げたい人とかが相談に訪れる場所。あ、あと異世界登録名の変更とかもこっちでする。
トワイヤの魔物達はフルネームを名乗る文化はないらしい。
大抵名前だけとか、ノリであだな、偽名を使う。
なんとなく誰のことを指してるのか分かれば良いって感じらしい。
だから最初日本側はフルネームで名乗っていたのだが、長い、言いづらい、覚えづらいってクレームが来て、異世界での名前は2文字から5文字まで。分かりやすくね、ってことになった。すげえフリーダム。
もう一つの、自動ドアがついてない大きな入り口の方に、異世界への「扉」がある。
中の作りはもう駅の改札そのまんま。
大きく開かれた「扉」に向かってずらりと改札が並んでおり、異世界企業で働く大人達は異世界語2級(もしくは3級)のライセンスをSuicaみたいにかざして通っていくのだ。
だからみんな好き勝手に異世界駅とか異世界世田谷駅とか呼んでいて、最近では「イセガヤ駅」が定着してきた。んで「扉」を抜けた先はトワイヤ総合センターなのだが、みんなそっちを「トワイヤ駅」と呼んでいる。
俺みたいな学生バイトは、手動改札の方へ向かう……まあピークタイム過ぎてるから手動改札の所に誰もいないんだけどね。
改札の横にある窓口の方で職員さんに対応してもらう。
「やあジュンくん! あ、いや、スズくんに改名済みだったね! 今日もお疲れ様。ライセンスと帰還石見せてくれるかい」
「お疲れ様です。お願いします」
ウロヴィさんのせいで顔と名前を覚えられてしまった。
ノホホンとした50代ぐらいのおじさん職員が俺の2級ライセンスを見て、それから手のひらサイズの帰還石に魔力が込められてるか確認して「はいどうも、いってらっしゃい」と窓口に隣接してる改札をパカッと開いてくれた。
ぺこっと頭を下げて通ろうとした俺に、「ああ待って! 今日もスズくんにお手紙きてますよ!」と窓口の奥の方から若い職員が声を掛けてきた。
それを受け取ったおじさん職員が苦笑いしながら「ごめんごめん、今日の分だよ」とウロヴィさんの手紙を俺に差し出してきた……え、多くない?
「……一昨日回収したばっかりですよね。なんで5通も、しかも分厚い」
「うーん、僕らが直接預かったわけじゃないからなあ……トワイヤ側の職員に聞いてみると良いよ。たしかウサギ耳の美人な子が届けてくれたよ」
「わかりました……」
手紙は帰ってから読もう……うう、読みたくねえ……
手紙の内容は紛う事なきラブレターだ。
「会いたい」「話がしたい」はまだ良いんだが「君が欲しい」「君の体温をこの腕で感じたい」「ジュンのいろんな表情を私に見せてくれ」「あの口づけを忘れはしない。次は唇に」と強烈な言葉が書き連ねられているのがキツい。
君が欲しいって……つまり、そういうことだろ?
だってウロヴィさん、お付き合いとかすっ飛ばして、俺のこと番とか妻とか言ってたんだぜ?
そんな相手に君が欲しいって……どう考えても、お前を抱きたい的な意味で欲しいって事だろ。
つまり、ウロヴィさんはあの「お゛ッ……!!」サイズのちんこを俺にぶち込む気でいるってことだろ!?「お゛ッ……!!」だぞ!? ケツが死ぬじゃん!
生まれてこの方ラブレターなんて貰ったことがないモテない俺なので、好きだと言われて全く嬉しくないわけじゃない。しかし、すぐにあのビックなちんこを思い出して、尻穴が恐怖できゅっとするのだ。
でも何があるか分からないから、読まずに放置はもっと怖い。
まるで呪いの人形でも渡されたように、こわごわと見つめていた手紙の上に、コロンと1口サイズのチョコレートが3つ落ちてきた。
驚いて顔を上げると、おじさん職員が目の前にたっている。
「色々大変だろうけど、これでも食べて頑張って」
「あ、ありがとうございます」
「僕は君を応援してるんだ」
「そ……そうなんですか?」
突然の事に驚く。でも暖かい言葉に、荒んだ心がふわっと軽くなる。
俺のこと応援してくれてるなんて、純粋に……嬉しい。
しかし、続く職員さんの言葉に俺は固まることになった。
「君がここに通い始めた当初は、なんかすごい睨んでくる怖い子が来たぞって他の職員が噂してたからさ。実はビビってしまってたんだけど、話してみれば礼儀正しいし、普通だし、逆にびっくりしちゃったよ」
「びっくりしちゃったんすか……」
「だって眼光だけで人殺せそうな顔してるしさ! ……ふふ、今ならあれは緊張して顔が強張ってたんだって分かるけど、あの時はいつ殴りかかってくるんだろうってヒヤヒヤしたよ!」
「なぐんねえよぉ……」
思わずこぼれた悲哀混じりのつぶやき。職員さんには聞こえなかったようで「え、なんだって?」と聞き返したので「何でも無いです」力なく首を横に振った。
「ああ、引き留めちゃってごめんね。新しいバイト探し頑張って! 行ってらっしゃい!」
「はい……行ってきます……」
顔が引きつってないか心配だけど、無理矢理笑顔を浮かべてお辞儀する。しかし「その顔は初対面の相手がビビっちゃうから、面接では駄目だよ~」とこれまたノホホンとした声で言われてしまった。
もうお気づきの方も多いだろう。
そう……俺は目つきがすごぶる悪い……
橋元の「生意気な目つき」ってのは、かなりマイルドな表現で、裕一の「唯一無二の極悪さ」の言葉は誇張じゃなく、真実だ。
顔自体はいたって普通だと思う。どっちかというと美人な母ちゃんに似て、それなりに良い方だ。
日焼けしづらい白い肌に、形の良い薄い唇。すっと通った鼻筋、それらのパーツが良い感じに配置されてる。しかし、その美形要素を祖父譲りのツリ目がすべてを打ち消してしまうんだ。
祖父はどこにでもいる孫が大好きな優しいじいちゃんだ。
ただ、ちょっと厳つい顔に凶悪な目が恐ろしく、お見合いの席で目が合った相手のお嬢さんが失神してしまったという悲しい伝説をもってたりするけど……俺も妹も、小学校に入る前はじいちゃんに会いに行くたびギャン泣きだったらしく、じいちゃん家にある俺たちの写真は泣いてるのばっかりだ。
そんなじいちゃんの血を俺はがっつり引き継いでしまっていた。
爺ちゃんの顔を見てギャン泣きしてた俺も、その後、何人もの同級生を見つめただけで泣かせる事になるのだ。
まあ、単に目つき悪いだけだから、見た目に慣れちゃえばみんな普通に接してくれるようになるのが救いだけど、どこへいっても第一印象は最悪なんだよ。
初対面の女子は基本的に怯えられる。筋肉質な体型で身長が185㎝以上あったじいちゃんと違って、俺は中肉中背な身長170㎝なので失神される事はないが、その場を和ますトークなんて出来るはずないので、クラスの女子達も打ち解けるのに2ヶ月ぐらい掛かった。
初対面の男はまた面倒くさいことに怯える奴と喧嘩ふっかけてくる奴の2通りに分かれる。怯えるタイプは裕一が俺に話しかけてる姿を見て早々に誤解だと気づいてくれることが多いが、喧嘩ふっかけるタイプは、俺の性格なんかどうでも良くて、目つきが生意気、気にくわないとか因縁つけて何度も絡んでくるから厄介だ。
今のところ、己の逃げ足の早さと、躊躇いなく大きな声で周りに助けを求めてくれる裕一のおかげで、殴られたことはない。
しかも今、勢いで茶髪に染めちゃったからなあ……気をつけないと。
実は、裕一には言ってないけど、日本企業のバイト面接、したことあるんだ……
高校入学と共にトワイヤの「扉」くぐって異世界ハローワークへ行ったけど、ダンジョンのバイト募集に学生が殺到してて、俺が行ったときには一つも求人が残ってなかった。
だからダンジョンのバイト募集が再び出るまで、トワイヤにある日本企業でバイトするかーと軽い気持ちで面接いったんだよ。そしたらまあ……お察しの通りだ。
面接で落とされるわけ。一番ひどかったのは、扉開けて入った瞬間「ひい」って面接官が悲鳴上げて逃げちゃったのはほんと……4社面接で落ちた後で、顔が強張ってたってのあるけど、悲鳴あげることねえだろ……
はあ、思い出すだけで憂鬱だ。
でも裕一とも約束しちまったしな。
しかたない。5社落ちるのは覚悟しよう。
ネガティブながらも決意を固めたところで、俺は異世界トワイヤへ通じる「扉」の方へと進んだ。
続く
次回やーっと異世界ですw
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