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番外編 重ねる日々
ミールディール
しおりを挟む定時退勤のあと、イェオリはクレイヴと一緒にカルバートン近くのスーパーへ出かけた。厨房を牛耳る料理長が休みなので、夕食を調達する必要があるからだ。
頼んでおけば冷蔵庫にまかないを作り置きしてもらえるが、たまには外でファーストフードなども食べたくなる。
きょうはふたりとも遠出をする気分ではなく、クレイヴの提案で屋敷の通用口から数分で歩いて行けるスーパーの総菜にしようと決まった。
入口でいったん別れ、日用品のストックをいくつかカートに入れつつ店内を見て回っていたイェオリは、飲み物のペットボトルが並ぶコーナーで見覚えのある金額表示を見つけた。
懐かしいな。
「イェオリ、そこのコーラ取って」
棚からミネラルウォーターを抜き出したところで声を掛けられ首を回すと、早くも夕飯を選んだクレイヴが立っている。その手にあるものを見て、イェオリは「典型的なミールディールですね」と言って棚からコーラを取った。
「だって普通に買うより安いから」
ペットボトルを受け取った手で、クレイヴが棚に掲げられた「ミールディール 4.5ユーロ」の表示を指さす。
店側が指定するメインの食事+サイドメニュー+ドリンクをセットにすると、単品で買うより値引きされるシステムだ。もとはイギリスのスーパーでの一般的な販売方法らしいが、近年シルヴァーナのスーパーでも広く普及していて、うまくすると単品の合計の半値くらいで買えるから、イェオリも学生のころはよく利用していた。
「イェオリは何にした?」
「トルティーヤとカットフルーツ、それと水です」
「……あっちにチョコバーあるよ。プロテイン入りのとかも置いてる」
菓子売り場を顎で示したクレイヴのチョイスはと言えば、サンドイッチにコーラ、そしてクリスプだ。ソルト&ビネガー味のクリスプ!
いや、もちろんクリスプも店側が定義する立派なサイドメニューだから、セット内容として問題はない。あるのはこちらの「食事」の定義だ。
イェオリに──と言うかほとんどの日本人にとって、クリスプやチョコバーが食事メニューとしてカウントされることはないだろう。これがナゲットやサラミならまだ驚きはしなかっただろうが、学生時代も周囲はサイドメニューに純然たる「スナック」を選んでいた。
文化の違いはさまざま感じてきたなかでも、食生活については本当に奥が深い。
むろん、イェオリだってチョコバーもクリスプも口にする。運動後のエネルギー補給や、たまのジャンクフードは癒しだ。事務所の机にだって、こっそりスニッカーズが入っている。
ただし、食事では、ない。
「売り場は把握していますので大丈夫です」
クレイヴの親切を丁寧にかわして、イェオリは「行きましょうか」とレジに向かった。
クリスプはごはんに入りません。
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こんにちは。
「旦那さま」のフレンチトーストに反応して起きるエリオットが可愛くて、それを予想して起こしに来るイェオリの優秀さに惚れ惚れして、完璧なフレンチトーストを作るバッシュに感嘆しつつ、
平和で穏やかな日常の二人の幸せ具合に、こちらまでほんわりした気持ちになりました。
読み始めた時には、カタカナの名前に、勝手に「異世界の魔法が出て来る物語」なのかと思い込んでいて、テレビが出てきて、舞台は現代ヨーロッパ周辺なんだと理解したとき、自分の感覚が爛れているなと震えてしまったのですが…
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イェオリの物語もスピンオフで読みたいなぁ。。と思ってます。フレンチトーストのような、小さな幸せの小話も大好きです。
これからもお話、楽しみにしてます。
こんにちは。
感想ありがとうございます。
ファンタジーだと思った、とはよく言われます(笑)現代王室もの、楽しんでいただけたようでよかったです。
今106話。
なんでそこまでエリオットは我慢するの?もっと自分を解放したらいいのに。
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