箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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番外編 重ねる日々

兄、叱られる

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「近頃、植物関係の本が増えましたね」

 届いた本を書斎の本棚に収めていたフレッドが、首を回してデスクにいるサイラスを見やる。

 バッシュは荷物に同封されていた明細を確認しつつ、横目で主人を窺った。

 同僚が指摘したとおり、以前は小説やエッセイが大部分を占めていた本棚の一角には、植物やガーデニングに関する書籍が並んでいる。いまバッシュの手元にある明細にも、本日の入荷として「バラの交配と系譜」や「山野草のガーデン」などといったタイトルが列挙されていた。

「あれが話を振ってきたら、合わせてやらなければならないだろう」

 あれ、とは、この素直じゃない兄の、歳の離れた弟だ。

「両親もミシェルも、植物や園芸は好きだが干渉する程度だ」

 それが悪いのではないが、どうせならひとりくらい詳しい話ができてもいい。だから、庭いじりと植物の研究を仕事にしてしまった弟と対等に話ができるよう、知識を深めていると。

 彼の弟を『よく知る』バッシュからすれば、彼は学術的な議論を戦わせるよりも黙って庭を散歩するほうを好みそうだし、作った寄せ植えを「綺麗だな」と言ってもらえたら、それで満足する性格だ。

 詳しくないなら、相手に教えてもらうという楽しみ方をしているバッシュは、それを伝えるべきかどうか迷ったが、迷っているうちにフレッドが大きなため息をついた。

「なんだ、問題でもあるのか」
「いやあ、なんと言うか……。わたし、三兄弟の末っ子なんですけどね」
「そうだったな」
「えぇ。上ふたりと歳が離れてるものですから、全てにおいて負け続けの人生なわけです」
「それは大げさだろう」
「いーえ、そうです。年齢は絶対に追い越せないので兄弟げんかは勝てないし、語彙も悪知恵も兄たちのほうが上なんです」
「だからなんだ」
「だから」

 フレッドが手に残った本でビシッとサイラスを指す。

「ひとつくらい、弟君に譲りましょうよ。専門用語を連発しまくって、家族がポカーンとしててもいいじゃないですか。最初からドヤ顔して焼き付け刃の知識をひけらかすより、『それは知らなかった、すごいな』って言って差し上げるほうがいいと思いますよ、わたしは」

 まさに「ポカーン」としたサイラスが、空色の瞳を動かしてバッシュを見る。

 お前もそう思うか? と聞かれているのは間違いない。

「……花の名前をお尋ねすれば、喜んで教えてくださいますよ」
「……そうか」

 弟可愛さに、どうにも先回りしてしまうくせのある主人は、侍従に釘を刺されて頷いた。

「しばらく、本を集めていることは黙っておけ」
「承知いたしました」
「あぁ、ではこの棚は布でもかけておきましょうか。弟君が突然おいでになっても大丈夫なように」

 フレッドのからかいは、あっさりと黙殺された。
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