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番外編 重ねる日々

だいたいの発端はクレイヴ

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 カルバートンの料理長が休みなのは、さほど珍しくない。完全週休二日制の勤務体系を考えれば、一週間のうち二日は確実に不在なわけで。

 賄いがなくとも、スタッフたちは近くのデリで調達するから問題ない。むしろちょっと変わり種のパンとか中華とかで気分転換ができる機会でもあった。

 しかし。

「これ頼みたいんだけど」

 エリオットがわくわくと広げたデリバリーピザのチラシを前に、イェオリは料理長の不在を呪った。

 いや、エリオットだってチャドの出勤日だったら、こんなことは言い出さなかっただろうが。

「フラットにお住いのころも、デリバリーをご利用に?」
「ううん。うちのフラット、チラシ入らなかったから」
「さようですか。このチラシはどこで?」
「こないだクレイヴが、『カルバートンの郵便受けに入れるとか勇者ですよね』って見せてくれたのをもらった」
「さようで」

 イェオリは表情を笑顔で固定したまま、カラフルなピザのメニュー表を見た。

「どのピザにいたしましょう」
「このね、コーン山盛りのやつと、炭火焼きビーフとパイナップルのやつ」
「承知いたしました。注文を間違えるといけませんので、このチラシをお預かりしてもよろしいですか?」

 もちろん嘘だ。これくらいのオーダーを記憶できないイェオリではない。だがエリオットは「いいよ」とチラシをテーブルに置いた。

「昼食用に手配いたしますね」
「やった!」



  ◇



 チラシを手に事務室へ戻ったイェオリは、手招いて寄ってきたクレイヴを捕まえコブラツイストをかけながら尋ねた。

「笑いのネタを提供するのは構いませんが、回収を怠るとはどういうことです?」
「いやいやいや、殿下に欲しいっていわれたら断れないでしょ! 見せるだけってそんな意地の悪い……あだだだだ!」

 だったら最初から見せなければいいのだ。

 服務規程の中に、王子にジャンクなものを食べさせてはいけないという決まりはないし、自分たちもデリを利用するのにエリオットには「ハウスからのランチがあるので我慢してください」とはいえない。けれど、ピザチェーンの派手なバイクがパパラッチに捕捉されたら、夕方のネットニュースには『王子が自宅でピザパーティー!』とかいう見出しとともに、エリオットのランチメニューが載るだろう。

 まったく。彼らの人権意識はどうなっているのか。

 イェオリはため息をつくと、極めていた肩関節を解放してクレイヴの目の前にチラシを広げた。

「コーン山盛りピザと、炭火焼きビーフとパイナップルピザだそうです」
「いって……なんですか?」
「殿下のご希望です。昼までに手配してください」

 鬼! 悪魔! と恨めしげに呻いていた執事見習いが、ぱちぱち瞬きしてチラシとイェオリを見比べる。

「えっ、マジで宅配頼むの?」
「……」

 ベイカー仕込みの笑顔を向ければ、クレイヴは痛いはずの肩でビシッと敬礼した。

「ハイ、トゥーゴーですね! すぐ着替えて行ってきます!」

 察しはいいんですけどね。






 ベイカーは笑顔で詰めてくるから怖いし、イェオリは笑顔で極めてくるから怖いです!
 byクレイヴ
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