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訳あり王子と秘密の恋人 第二部 第七章
14.交わり溶ける※
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ためらいなく唇が重なり、やっぱ成功じゃん、と頭の片隅がサムズアップする。舌が絡んで、すぐにそんな余裕もなくなったけど。
湯と同じくらい熱い舌が、カスタードクリームの残り香を探すように深く探ってくる。我が物顔で所有権主張してんじゃねーよと思うけど、軽く歯を立てられた唇がしびれて皮肉も出てこない。
「あっ!」
いきなりダイレクトな刺激がきて、エリオットは慌ててそこを見た。
大きなバスタブとはいえ、限界はある。ひっぱられたときに溺れまいと突っ張った足の間にバッシュがいて、手にしたスポンジでエリオットのものを包んでいた。
「なにして……」
「洗ってやるっていったろ」
バカ! 変態!
わめく口をキスでふさがれる。泡まみれの柔らかなスポンジでこすられて、反射的に腹筋に力が入り、あごが上がった。
「んんっ」
熱い。
体中、ひとつひとつ火を灯すような触り方じゃない。でもここは吸い込む酸素すら熱くて、あっというまに思考があいまいになっていった。
バッシュの手の動きに合わせ、エリオットは拙く腰を動かす。キスの合間に目を落とすとスポンジの先に自分のものが見え隠れしていて、恥知らずな行為にクラクラした。
好き放題エリオットの唇を貪っていたバッシュの舌が、顎から首筋へと移動した。水面ギリギリに覗いている胸の尖りにたどり着き、そこで小さく悪態をつく。
「くそっ──」
「ん……なに?」
「ゴムがない。……バッグの中だ」
吐息交じりで笑う。
「準備のいいことで」
「ちょっと待ってろ。すぐ取ってくる」
この状況で? 冗談だろ。
「やだ」
エリオットは両足でバッシュの腰を引き寄せた。硬く起ち上がったものが触れて、興奮しているのが自分だけじゃないことにちょっと安心する。
「そのままして」
片腕で抱き寄せた耳元に囁けば、普段は鷹揚な瞳の下に隠している獰猛さが、炎のように揺らめいた。
スポンジを放り投げたバッシュは、引っ張り起こしたエリオットを軽々とひっくり返した。バスタブの淵に両手をつき、四つん這いで尻を突き出す形になる。
後ろからするのは初めてだったが、バッシュは狼のようにうなじを噛んだりはしなかった。代わりに、まだ泡が残る首や肩に何度もキスをして、エリオットが怖がっていないと分かると、また痛いほどの高ぶりに愛撫を始める。今度はスポンジじゃなく、薄い皮膚の下に血の通った手で。
「あ、それ、いい……」
へたくそな鼻歌が響いていたバスルームに、震える喉から押し出された声が転がっていく。
セックスのとき、バッシュはあまりしゃべらない。もとより饒舌なタイプではないけれど、最中は特に。エリオットが発する声や反応を見逃さまいとするように集中していた。
だから、大丈夫。
波打つ背骨の凹凸を唇で数え、エリオットを絶頂寸前まで導いた指が慎重に挿し込まれる。
「んぅ……」
ぎゅっと握った手に力が入ると、なだめるように耳を食まれた。
「ゆっくり息を吐け……そう……」
呼吸に合わせて、ボディーソープのぬめりを借りた指が、くちくちと出入りする。動くたびに湯が揺れるのに、そのささやかな睦合いの音はやたら大きく聞こえた。
「はぁ……あっ……う……」
エリオットは、バスタブの淵についた両肘の間に頭を落とす。跳ねた湯か汗か分からない水滴がまつ毛に落ちてきて、まばたきすると視界がぼんやりにじんだ。
柔らかくなるまでの時間は、思うよりずっと短かった。自分の体が、セックスのたびに作り変えられている気がする。だって知らなかった。愛している相手を受け入れて、自分の一部みたいに感じることが、こんなに気持ちいいなんて。
指が抜かれ、しかし寂しく思う間もなく熱いものが押し付けられる。
「あ、ぁ……あっ」
「もう少し……」
「あぁ──ッ」
浅いところで数回前後し、さらに奥へ。
打ち込まれた大きな楔に、胸を上下させながら呼吸を整えていると、バッシュの右手が首筋から頬をなで上げ、唇をなぞった。エリオットがその親指を捕まえれば、とがった犬歯の先や舌に触れてくる。
緩やかな刺激を受けながら、爪の先を噛み、舌を絡めては指の付け根から吸い上げた。下の口でも同じように含んだ屹立を締め付けると、肩甲骨のあたりにバッシュの吐息がかかった。
しゃぶっていた指が口の端からこぼれた唾液をぬぐい、軽く顎を掴む。されるがまま首をひねた。深く甘いキスを交わす間、エリオットは焦点が合わないほど近くにある青色に酔った。
「そろそろいいか?」
「え? あっ、んんっ」
怪しげに内ももを這った手が、またエリオットのものを掴んでしごき上げた。たちまち腰砕けになったところへ追い打ちをかけるように力強く腰を突き上げられて、頭の芯がじんと痺れた。
「あ、あ、ぁ……」
入れて出す、それだけの動物じみた律動が、おかしくなりそうなほど気持ちいい。
バシャバシャとうねる水音も激しさを増して、難破寸前のボートみたいに揺さぶられる。いつもふたりを隔てている、薄い皮膜をまとわないバッシュの欲がエリオットの奥を拓き、内側から溶けてひとつになってしまいそうだ。──そんなバカげた考えは、駆け上がった吐精感に塗りつぶされる。
「あっ、も……出るっ」
「あぁ、おれも──」
耳の奥でひときわ大きな拍動が打ち、全身がガクガクと震えた。透明の湯に白濁が吐き出され、それが混ざる様子を見る余裕もなく、エリオットは今までで一番深く自分を貫いたバッシュのほとばしりを受け止める。
しばらく、あえぐような息遣いだけがバスルームにこだました。
硬さを失ったものがずるりと抜ける感覚に思わず声が漏れ、バッシュが苦笑しながらこめかみに唇を寄せてきた。
「あんまりかわいい声を出されると、またしたくなるな」
「もう無理……」
いやマジで。
エリオットがずるずるとへたり込むと、バッシュは「まぁ、追々な」なんて恐ろしいことをいいながら底の栓を抜き、シャワーのホースを伸ばしてバスタブに引き入れた。ボディーソープの清潔な香りと、濃密な情交の残滓が渦を巻いて流れていく。
温かい湯を頭から浴びながら、エリオットは「つーかさ」とかすれた声でいった。
「なんだ?」
エリオットはルードみたいに頭を振って水気を飛ばし、向き合ったバッシュの足の間に収まった。
「全然おうちデートじゃない」
まんま、珍しいシチュエーションに盛り上がったバカップルじゃねーか。
その意見には同意だったのか、バッシュも「ははっ」と声をあげて笑う。それから手を伸ばして、シャンプーとボディーソープのボトルを引き寄せた。
「ちゃんとトリミングしてやるから膨れるな」
「だれが犬だ」
エリオットは瞬時に突っ込みしつつ、そういえば途中で中断したんだった、と腕を預けかけ、「待て!」
慌てて引っ込めた。
「おい」
「ん?」
「それで洗うつもりか?」
バッシュは手の中にあるスポンジを見て、それをなにに使ったのか思い出し、エリオットのセンシティブな部分に目を落とした。
「あぁ」
いかにも悪童じみた笑みを浮かべる。
「まぁまぁ、べつに汚れてるわけじゃないし」
「デリカシーってものがねーのかあんたは!」
面白がってスポンジを揉むバッシュからシャワーを奪い、エリオットはその顔に向かって湯をかけた。「ぶふぇっ」と間抜けな悲鳴が上がり、スポンジがぺしょっと床に落ちた。
ほんの数分前まで吐息を交わしていたとは思えないほど、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらバスタブの中でシャワーの取り合いになる。
そうしていると、あしたからいままでとは決定的に違う毎日が始まるのも嘘みたいだ。それがどんなものになるかはまだ分からないけれど、この男が傍にいるなら「まぁ、しょうがねーな」と立ち向かっていける気がした。
湯と同じくらい熱い舌が、カスタードクリームの残り香を探すように深く探ってくる。我が物顔で所有権主張してんじゃねーよと思うけど、軽く歯を立てられた唇がしびれて皮肉も出てこない。
「あっ!」
いきなりダイレクトな刺激がきて、エリオットは慌ててそこを見た。
大きなバスタブとはいえ、限界はある。ひっぱられたときに溺れまいと突っ張った足の間にバッシュがいて、手にしたスポンジでエリオットのものを包んでいた。
「なにして……」
「洗ってやるっていったろ」
バカ! 変態!
わめく口をキスでふさがれる。泡まみれの柔らかなスポンジでこすられて、反射的に腹筋に力が入り、あごが上がった。
「んんっ」
熱い。
体中、ひとつひとつ火を灯すような触り方じゃない。でもここは吸い込む酸素すら熱くて、あっというまに思考があいまいになっていった。
バッシュの手の動きに合わせ、エリオットは拙く腰を動かす。キスの合間に目を落とすとスポンジの先に自分のものが見え隠れしていて、恥知らずな行為にクラクラした。
好き放題エリオットの唇を貪っていたバッシュの舌が、顎から首筋へと移動した。水面ギリギリに覗いている胸の尖りにたどり着き、そこで小さく悪態をつく。
「くそっ──」
「ん……なに?」
「ゴムがない。……バッグの中だ」
吐息交じりで笑う。
「準備のいいことで」
「ちょっと待ってろ。すぐ取ってくる」
この状況で? 冗談だろ。
「やだ」
エリオットは両足でバッシュの腰を引き寄せた。硬く起ち上がったものが触れて、興奮しているのが自分だけじゃないことにちょっと安心する。
「そのままして」
片腕で抱き寄せた耳元に囁けば、普段は鷹揚な瞳の下に隠している獰猛さが、炎のように揺らめいた。
スポンジを放り投げたバッシュは、引っ張り起こしたエリオットを軽々とひっくり返した。バスタブの淵に両手をつき、四つん這いで尻を突き出す形になる。
後ろからするのは初めてだったが、バッシュは狼のようにうなじを噛んだりはしなかった。代わりに、まだ泡が残る首や肩に何度もキスをして、エリオットが怖がっていないと分かると、また痛いほどの高ぶりに愛撫を始める。今度はスポンジじゃなく、薄い皮膚の下に血の通った手で。
「あ、それ、いい……」
へたくそな鼻歌が響いていたバスルームに、震える喉から押し出された声が転がっていく。
セックスのとき、バッシュはあまりしゃべらない。もとより饒舌なタイプではないけれど、最中は特に。エリオットが発する声や反応を見逃さまいとするように集中していた。
だから、大丈夫。
波打つ背骨の凹凸を唇で数え、エリオットを絶頂寸前まで導いた指が慎重に挿し込まれる。
「んぅ……」
ぎゅっと握った手に力が入ると、なだめるように耳を食まれた。
「ゆっくり息を吐け……そう……」
呼吸に合わせて、ボディーソープのぬめりを借りた指が、くちくちと出入りする。動くたびに湯が揺れるのに、そのささやかな睦合いの音はやたら大きく聞こえた。
「はぁ……あっ……う……」
エリオットは、バスタブの淵についた両肘の間に頭を落とす。跳ねた湯か汗か分からない水滴がまつ毛に落ちてきて、まばたきすると視界がぼんやりにじんだ。
柔らかくなるまでの時間は、思うよりずっと短かった。自分の体が、セックスのたびに作り変えられている気がする。だって知らなかった。愛している相手を受け入れて、自分の一部みたいに感じることが、こんなに気持ちいいなんて。
指が抜かれ、しかし寂しく思う間もなく熱いものが押し付けられる。
「あ、ぁ……あっ」
「もう少し……」
「あぁ──ッ」
浅いところで数回前後し、さらに奥へ。
打ち込まれた大きな楔に、胸を上下させながら呼吸を整えていると、バッシュの右手が首筋から頬をなで上げ、唇をなぞった。エリオットがその親指を捕まえれば、とがった犬歯の先や舌に触れてくる。
緩やかな刺激を受けながら、爪の先を噛み、舌を絡めては指の付け根から吸い上げた。下の口でも同じように含んだ屹立を締め付けると、肩甲骨のあたりにバッシュの吐息がかかった。
しゃぶっていた指が口の端からこぼれた唾液をぬぐい、軽く顎を掴む。されるがまま首をひねた。深く甘いキスを交わす間、エリオットは焦点が合わないほど近くにある青色に酔った。
「そろそろいいか?」
「え? あっ、んんっ」
怪しげに内ももを這った手が、またエリオットのものを掴んでしごき上げた。たちまち腰砕けになったところへ追い打ちをかけるように力強く腰を突き上げられて、頭の芯がじんと痺れた。
「あ、あ、ぁ……」
入れて出す、それだけの動物じみた律動が、おかしくなりそうなほど気持ちいい。
バシャバシャとうねる水音も激しさを増して、難破寸前のボートみたいに揺さぶられる。いつもふたりを隔てている、薄い皮膜をまとわないバッシュの欲がエリオットの奥を拓き、内側から溶けてひとつになってしまいそうだ。──そんなバカげた考えは、駆け上がった吐精感に塗りつぶされる。
「あっ、も……出るっ」
「あぁ、おれも──」
耳の奥でひときわ大きな拍動が打ち、全身がガクガクと震えた。透明の湯に白濁が吐き出され、それが混ざる様子を見る余裕もなく、エリオットは今までで一番深く自分を貫いたバッシュのほとばしりを受け止める。
しばらく、あえぐような息遣いだけがバスルームにこだました。
硬さを失ったものがずるりと抜ける感覚に思わず声が漏れ、バッシュが苦笑しながらこめかみに唇を寄せてきた。
「あんまりかわいい声を出されると、またしたくなるな」
「もう無理……」
いやマジで。
エリオットがずるずるとへたり込むと、バッシュは「まぁ、追々な」なんて恐ろしいことをいいながら底の栓を抜き、シャワーのホースを伸ばしてバスタブに引き入れた。ボディーソープの清潔な香りと、濃密な情交の残滓が渦を巻いて流れていく。
温かい湯を頭から浴びながら、エリオットは「つーかさ」とかすれた声でいった。
「なんだ?」
エリオットはルードみたいに頭を振って水気を飛ばし、向き合ったバッシュの足の間に収まった。
「全然おうちデートじゃない」
まんま、珍しいシチュエーションに盛り上がったバカップルじゃねーか。
その意見には同意だったのか、バッシュも「ははっ」と声をあげて笑う。それから手を伸ばして、シャンプーとボディーソープのボトルを引き寄せた。
「ちゃんとトリミングしてやるから膨れるな」
「だれが犬だ」
エリオットは瞬時に突っ込みしつつ、そういえば途中で中断したんだった、と腕を預けかけ、「待て!」
慌てて引っ込めた。
「おい」
「ん?」
「それで洗うつもりか?」
バッシュは手の中にあるスポンジを見て、それをなにに使ったのか思い出し、エリオットのセンシティブな部分に目を落とした。
「あぁ」
いかにも悪童じみた笑みを浮かべる。
「まぁまぁ、べつに汚れてるわけじゃないし」
「デリカシーってものがねーのかあんたは!」
面白がってスポンジを揉むバッシュからシャワーを奪い、エリオットはその顔に向かって湯をかけた。「ぶふぇっ」と間抜けな悲鳴が上がり、スポンジがぺしょっと床に落ちた。
ほんの数分前まで吐息を交わしていたとは思えないほど、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらバスタブの中でシャワーの取り合いになる。
そうしていると、あしたからいままでとは決定的に違う毎日が始まるのも嘘みたいだ。それがどんなものになるかはまだ分からないけれど、この男が傍にいるなら「まぁ、しょうがねーな」と立ち向かっていける気がした。
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