箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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番外編 重ねる日々

Twitter小話3本

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サンデー


「大きいアイスが欲しい?」
「うん。2Lのでっかいの」
「何でまた」
「クレイヴが子どもの頃、家の冷凍庫に入ってて、好きなだけカップに入れてチョコソースとか砕いたクッキーとか、カラースプレーをトッピングして食べてたんだって」
「それがやりたいと?」
「うん」
「エリオット、驚くかもしれないが」
「何?」
「カルバートンの冷凍庫にも、業務用の2L入りバニラアイスがある」
「そうなの!?」
「夕飯のデザートに出て来るアイスを何だと思ってたんだお前は」
「だって、デザートのアイスはお皿にのって来るし、パイとかに入ってるし……」
「王子さまめ」


 このあとマグカップでサンデー作って食べた。




タチアオイ


 庭の散策中、イェオリがふと足を止めた。
 珍しいこともある。

 エリオットが振り返ると、彼は地面に突き刺さる剣のように直立する植物の群れを見ていた。まっすぐ太陽へ向かって伸びながら、ぱっくりと白い花を咲かせている。

「ホーリーホックが珍しい?」

 声をかけると、漆黒の瞳が瞬く。

「いえ、日本でもよく見かけます」
「そうなんだ。日本語ではなんていうんだ?」
「タチアオイです」

 タチアオイ、エリオットは口の中で繰り返す。あとでちゃんと調べよう。

「子どもの頃は、この花が怖かったんですよ」
「怖い?」

 エリオットは、群生するホーリーホックをしげしげと眺めた。南国の花に似た、一重咲きの薄黄色、ほかにも紫やピンク色のものもあるが、子どもに恐怖を与えるようなものではない。

「子どもの頃に住んでいた家の玄関に、毎年咲いていたんです。背が高いものですから、花がこちらをじっと見下ろしているような気がして」

 イェオリが懐かしそうに笑っているので、エリオットはその場にしゃがんでみた。

「ほんとだ、なんか食われそう」

 太い緑の茎にラッパのように咲く花は、やや下向きのものだとなかなか迫力がある。

「でしょう?」

 肩をすくめるイェオリに、エリオットは茎の先を指さす。大きくなった蕾が、いくつも開花を待っていた。

「これが一番上まで咲くと真夏なんだ。この花の咲き具合で、バカンスの準備をするといいよ」

 きょとんとした顔でエリオットを見下ろしたイェオリが、口元に手を当てて噴き出した。

「恐ろしい花の妖怪も、カレンダー代わりですか」
「怖くないだろ?」
「さようですね」




ボウリング


「ボウリングやろう」

 映画を見つつスマホゲームをし、と怠惰な午後を過ごし、数時間ぶりに肘掛け椅子から立ち上がったエリオットが、唐突にいった。

 運動する気になったのは歓迎だが、さて。

「お忍びでボウリング場は厳しいな」
「引きこもり舐めるなよ」

 おうち遊びのプロだぞ、と胸を張ったエリオットは、右手で階下を指さす。

「キッチン行って、大きさは何でもいいから空のペットボトルもらって来て」
「なるほど」

 小説を読んでいたタブレットを低いテーブルに置いて、バッシュも腰を上げた。

「ボールは?」
「コレ」

 寝室にあるルードのおもちゃ箱からエリオットが掴み出したのは、シリコン製のラグビーボール。

「それじゃ、まっすぐ転がらないだろう」
「だから面白いんだろ」

 間違いない。

 レーンは部屋の前の廊下と決まる。プロの指示通りに、ピンを確保すべくバッシュはキッチンへ向かった。


「待てこれ転がすのも難しいぞ」
「ふふふ」
「……ハンデとして一回投げていいか?」
「あんたの腕力で投げたら、それこそ反則だろ」
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