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訳あり王子と秘密の恋人 第二部 第二章

10.侍従は何でも知っている

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「十分で首相との謁見です、陛下」

 ランディハム女史が戸口から告げる。

 もうそんな時間か。

 床に伏せていたルードに声をかけて立ち上がったエリオットに、「途中まで一緒に行こう」とエドゥアルドも腰を上げた。

「貴族会に出席するというのは本当か? もめていると聞いて母さんも心配している」
「もめてるんじゃないよ。これからもめる予定ってだけで」

 笑うべきか心配するべきか迷っているエドゥアルドへ、エリオットはこれまでの経緯と執行部会に呼ばれたことを簡単に説明した。きっかけとなったキャロルのことは抜きで。

「委員長のことは、父さんも知らなかった?」
「残念ながら、わたしのところまで回って来るような貴族会の文書は、執行部代表者のサインしかない」
「そこの代表だけは別のひとにしてたってことか」

 完全な計画的犯行だ。

 執務室から出て女史の机がある前室を通り抜けながら、エドゥアルドは憂いの深そうな目でエリオットを見る。

「おじいさまと話しは?」
「したよ」

 マイルズには、すでに電話をしている。引退してからあまり貴族たちに目を光らせていなかったことを謝られたが、本来ならエリオットが自分で監視していなければいけなかったことなので、祖父を責めることはできない。

「あそこは小さいけど厄介な、もうひとつの政府みたいなものだっていってた」
「そう。議会と同じく、わたしは直接関与できない厄介な場所だ」

 国王と王妃は貴族ではないから、彼らの意思決定機関である貴族会に口を出すことができない。公爵の称号を持つサイラスも、立太子と同時に貴族会での発言権を放棄している。ミシェルも王太子妃として戴冠したときに。つまり現在のところ、家族の中で貴族会に参加し発言できるのはエリオットしかいなかった。

 最後まで岩のように生真面目な表情を崩さない秘書に見送られて廊下に出ると、警護官ふたりと侍従がひとり加わり、ちょっとした集団ができる。エドゥアルドは警護官を先に歩かせ、エリオットが好きなだけ距離を取れるようにしてくれた。

「せめて、オブザーバーとして、わたしも出席できればよかったんだが」

 エドゥアルドがいる前では、貴族たちも下手なことは言えないだろう。一瞬、自分のうしろからにらみを利かせる父親の姿を想像してみて、エリオットはすぐにその考えを捨てる。

 父兄参観かよ。

「ベイカーが同席してくれるから、最悪なことにはならないと思う」
「それは心強い」

 エドゥアルドは最後尾を歩くベイカーを振り返った。

「ベイカー、息子はどうかな」
「はい、陛下。才気に恵まれて思慮深く、周囲の者への愛情もお持ちになる、素晴らしいご子息です。少々こだわりが強くていらっしゃるところも、わたくしが初めてお仕えした、お若いころの陛下を思い出します」
「わたしは頑固だったか?」
「ヘインズ公爵家のお茶会で王妃陛下に一目惚れなさって、ほかの方に隣の席をお譲りにならなかったり、お誕生日の贈り物をどうしても直接お渡しになると仰って、王妃陛下の通われる大学へお忍びでいらしたこともありましたね」

 どっちも侍従がたしなめたり止めたりしただろうことは、容易に想像できる。

 どれだけ母さんにベタ惚れだったんだ。

 自分は絶対に、比べられるほど頑固じゃない。

「記憶力も健在でなによりだ。今後も息子をよろしく頼むよ」
「かしこまりました」

 生き字引って恐ろしいな。

 別れ際にもう一度ルードを撫で、「大人しくて賢い子だ」と絶賛したエドゥアルドは、なぞかけでもするようにこういった。

「文書室の召喚状だが、なぜ三年も見つけられなかったんだろうね?」

 角を曲がる背中が見えなくなるまでそこにいたエリオットは、首を回してベイカーを見る。

「……いまの、どういう意味だと思う?」
「分かりかねますが、おそらく重要なことかと」
「だよな」

 ヒントのつもりなら、もっと分かりやすくいってほしい。

 自分は百戦錬磨かもしれないけど、こっちは初心者なんだからさ。
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