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訳あり王子と秘密の恋人 第一部 第五章
9.女子って恋バナ好きだよね
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左手でグラスに水を注ぎ、右手でロックを解除する。
『いま話せるところにいる?』
「ああ。洞窟で遭難中。アルミのカップに雨水をためて飲んでるところ」
『正直に、シルクのソファに横になって、バカラのグラスでシャンパンを飲んでるって言いなさい』
「だいたい当たってる」
スピーカーから、キャロルの笑い声が聞こえた。
『それで、用ってなに? 悪いんだけど、あと三十分で友人とランチに出かけるの』
「どこへ?」
『ベトナム料理。生春巻きが最高においしいんですって』
「それ、ソースがすごく辛いって聞いたことある」
『辛いのは大好きだから平気。ねぇ、空腹の女をイラつかせるとどうなるか、教えてあげましょうか?』
「ごめんって」
丸焼きにされないうちに、エリオットは素早く白旗をあげる。
数時間前に、エリオットは彼女へメッセージを入れていた。尋ねたいことがあるから、手が空いているときに連絡がほしいと。
なぜそうしようと──彼女を選んだことを含めて──思ったのか、自分でもよく分からない。ナサニエルやイェオリだって、真摯に話を聞いてくれるし、味方になってくれる。いつだってありがたいけれど、それでは結局なにも変わらないと分かっているからかもしれない。
膝の上の本を果物のボウルに取り換えて、鮮やかな黄緑色のマスカットをひと粒、房からもぎ取った。
「これはその……友達の話なんだけど」
『あなた、友達いるの?』
瞬時に返されて、ぐうの音も出ない。
『そうね、ごめんなさい。ひとりくらいはいるわよね、どうぞ?』
「あぁ、そうだよ。おれの話。……最近、『相手』とちょっと上手く行ってなくて。ケンカしたんだ」
うそでしょ? とキャロルが息を呑んだ。
『ちょっとやだ、わたしのせい? だったら謝るし説明もするから会わせて。なんなら電話でもいいから』
「いや、完全にこっちの問題」
エリオットが答えると、彼女は数秒沈黙して、「いいわ」と言った。
『ちょっと待って』
「……なにしてるんだ?」
『空いてるレッスン室を探してるの』
「音楽療法は必要ない」
『防音室じゃないとできない話でしょ』
肩に挟んだスマートフォンでキャロルが移動する気配を感じながら、エリオットは切れ目の入った皮をむいてマスカットを口に入れる。
『──さぁ、どういうこと?』
「ちょっと複雑なんだけどさ。……あぁ、その前に言っておくと、相手はおれときみの契約については了解してるし、この計画は悪くないと思ってる。キャロルに対して悪い感情があるとかじゃないんだ」
エリオットの「意に沿わない交渉」を持ちかけない限りは。
「だからこれは、おれと相手のあいだにある個人的な問題で、キャロルにはなんの関係もないことなんだ。でもなんの因果かおれたちはお互いに秘密を持ってる者同士だし、共有できる話題もあると思う。つまり──」
『つまり、恋バナがしたいんでしょ?』
キャロルはおそろしく的確だった。
『それか、恋愛相談が』
『いま話せるところにいる?』
「ああ。洞窟で遭難中。アルミのカップに雨水をためて飲んでるところ」
『正直に、シルクのソファに横になって、バカラのグラスでシャンパンを飲んでるって言いなさい』
「だいたい当たってる」
スピーカーから、キャロルの笑い声が聞こえた。
『それで、用ってなに? 悪いんだけど、あと三十分で友人とランチに出かけるの』
「どこへ?」
『ベトナム料理。生春巻きが最高においしいんですって』
「それ、ソースがすごく辛いって聞いたことある」
『辛いのは大好きだから平気。ねぇ、空腹の女をイラつかせるとどうなるか、教えてあげましょうか?』
「ごめんって」
丸焼きにされないうちに、エリオットは素早く白旗をあげる。
数時間前に、エリオットは彼女へメッセージを入れていた。尋ねたいことがあるから、手が空いているときに連絡がほしいと。
なぜそうしようと──彼女を選んだことを含めて──思ったのか、自分でもよく分からない。ナサニエルやイェオリだって、真摯に話を聞いてくれるし、味方になってくれる。いつだってありがたいけれど、それでは結局なにも変わらないと分かっているからかもしれない。
膝の上の本を果物のボウルに取り換えて、鮮やかな黄緑色のマスカットをひと粒、房からもぎ取った。
「これはその……友達の話なんだけど」
『あなた、友達いるの?』
瞬時に返されて、ぐうの音も出ない。
『そうね、ごめんなさい。ひとりくらいはいるわよね、どうぞ?』
「あぁ、そうだよ。おれの話。……最近、『相手』とちょっと上手く行ってなくて。ケンカしたんだ」
うそでしょ? とキャロルが息を呑んだ。
『ちょっとやだ、わたしのせい? だったら謝るし説明もするから会わせて。なんなら電話でもいいから』
「いや、完全にこっちの問題」
エリオットが答えると、彼女は数秒沈黙して、「いいわ」と言った。
『ちょっと待って』
「……なにしてるんだ?」
『空いてるレッスン室を探してるの』
「音楽療法は必要ない」
『防音室じゃないとできない話でしょ』
肩に挟んだスマートフォンでキャロルが移動する気配を感じながら、エリオットは切れ目の入った皮をむいてマスカットを口に入れる。
『──さぁ、どういうこと?』
「ちょっと複雑なんだけどさ。……あぁ、その前に言っておくと、相手はおれときみの契約については了解してるし、この計画は悪くないと思ってる。キャロルに対して悪い感情があるとかじゃないんだ」
エリオットの「意に沿わない交渉」を持ちかけない限りは。
「だからこれは、おれと相手のあいだにある個人的な問題で、キャロルにはなんの関係もないことなんだ。でもなんの因果かおれたちはお互いに秘密を持ってる者同士だし、共有できる話題もあると思う。つまり──」
『つまり、恋バナがしたいんでしょ?』
キャロルはおそろしく的確だった。
『それか、恋愛相談が』
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