箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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訳あり王子と秘密の恋人 第一部 第四章

2.罪深きはひと

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 犬舎は一頭につき一部屋の、カプセルホテルのような造りになっていた。

 来訪者が犬たちのようすを見られるスペースと、反対側のバックヤードに繋がる側がガラス張りの扉になっているが、左右の部屋の間には壁があるので、犬舎内では犬同士が互いの姿を見ることはない。

「天井も高くて、ベッドを入れれば、ひとでも生活できそうだわ」

 テディベアが転がる部屋を覗いたミシェルが言う。その印象には、エリオットも同意だった。

「なるべく、ストレスを与えないよう配慮しています。ここへ来たばかりでさみしがる子がいるときには、スタッフが寝袋を持ち込むこともありますね」
「一緒に寝てあげるの?」
「えぇ、それほど苦ではありませんよ。空調はきちんと管理されているので、風邪をひく心配もありません」
「とてもいい環境だわ」

 ずらりと並んだ犬舎は、わずかな獣臭さはあるものの、どこも明るくて清潔だ。クロスを並べた床に汚れは見当たらないし、ベッドや毛布、おもちゃなどは部屋によって違うから、個々の好みに合わせているのかもしれない。ペットホテルでもお目にかからないような待遇の良さだ。

「もしかして、そういう狙いなんですか?」
「おっしゃる通りです」

 エリオットが尋ねると、スタッフはくもりのないガラス窓を指の関節でノックした。

「わたしたちが、狭いケージに汚れた毛布で彼らを飼育すれば、それを目にした人は自分たちも同じように扱って構わないと考えるでしょう。ですから、このシェルターは常に清潔にして、犬たちにとってよい環境とするよう心がけています。これから里親になる人たちに、この環境が手本になるように」
「贅沢だ、と言われることは?」
「もちろんあります。国内のペット事情でいえば、価値の高い純血種はブリーダーから、ミックスや成犬はシェルターから迎えるのが一般的です。するとどうしても、シェルターには中間層以下が集まりやすい。けれど残念ですが、いくら無料譲渡といえど、自分たちの生活で手一杯な家庭に彼らを渡すことはできません。それはお互いを不幸にしてしまいます」

 毅然と述べたあと、スタッフは少し眉を下げて苦笑した。

「もちろん引き取り手が多い立地で、回転率のいい施設だからできることです。それでも、グッズの販売や寄付金の確保に血眼になっていたりしますし、実情は優雅でもなんでもないんですけど」
「よく分かりました」

 ヘインズのほうからいくらか寄付しておくか、とエリオットが考えていると、端の部屋を覗いたミシェルが「大きい子もいるのね」とスタッフを呼んだ。

 犬たちはドッグランへ出ていると思っていたが、居残りもいたらしい。

「うちの施設で唯一の大型犬です。ここへ来てもうすぐ一年半になるんですけど、まだ里親が見つからなくて」

 隣に立ったスタッフに、ミシェルが眉を下げた。

「なにか深刻な理由が? その、病気とか」
「いいえ。体はとっても健康です。まだ二歳になったばかりで若いですし。ただ、この辺りはテラスハウスやフラットが多く、小型から中型の犬種が好まれるんです。この子は郊外のブリーダーからもらわれてきて、飼いきれないと持ち込まれました」

 そういえばカルバートンに迷い込んできたのも小さなパピヨンだったし、ドッグランにいたのも中型犬が中心だった。

 ミシェルが場所を開けてくれたので、エリオットもその不幸な犬を見ることができた。

「え、犬? シロクマじゃなくて?」
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