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訳あり王子と秘密の恋人 第一部 第一章

9.ロマンス

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『まるでおとぎ話! 天使のロマンス!』

──わが国でいまもっともホットな人物、プリンス・エリオットにロマンスの予感?
 この日、王子は王立音楽アカデミーの定期演奏会に姿を見せた(写真1.ホール入り口にて報道陣にほほ笑む王子)。華やかな夕べに似合いの、カジュアルな装いで現れた王子は、二時間ほど学生の演奏を鑑賞した(写真2.ボックス席から手を振る王子)。演奏会に訪れた学生の家族や関係者は、「王子は初々しい様子で、でもとても楽しんでいるようだった」と口をそろえる。
 しかしその裏側で密かに生まれていたロマンスが、SNSに投稿され話題となっている。

──お相手はバジェット家の次女、レディ・キャロル。若干十五歳で女王杯を制し鮮烈なデビューを飾ってから現在まで、目覚ましい活躍を続けている彼女は、この日の演奏会でもトリを務めた。そして彼女は喝采を浴びたその足で、密かに王子のもとへ。その瞬間が目撃されたのは別れ際。王子が立ち去ろうとしたレディ・キャロルに跪き、手を差し伸べたのだ(写真3.跪き、片手を差し出す王子)。
 その後、ほほを赤らめて手を重ねるレディ・キャロルと言葉を交わし、王子はその場を去ったと言う。ロマンスが生まれる瞬間を撮影した人物を直撃すると、「まるでガラスの靴を落としたシンデレラと王子さまだったわ!」と興奮気味に話した。

──果たして成婚の儀に舞い降りた天使は、己のロマンスも成就させることができるのか。今後の二人から目が離せない。一方、成婚の儀と言えば、サイラス王子は先週……。

「なにがロマンスだ!」

 タブロイド紙の電子版トップに掲載された記事を読んだエリオットは、タブレットを投げ出して怒鳴った。

「いますぐこの紙版を買ってこい! 一ミリ四方にまでみじみじに破いて塔から撒いてやる!」
「えぇ、あとで買いに行かせましょう」
「あんなジロジロ見られて楽しんでるわけねーだろ、パンダかおれは! こいつらの目は揃いも揃って節穴か!」
「さようでございますね」
「だいたい手を重ねたってなんだよ、捏造も甚だしい! このあとはなんだ、ダンスでも踊ったのか、キスしてプロポーズでもしたのか!」

 屈んでイヤリングを拾っただけだろうが!

 自室をぐるぐると歩き回りながら吠える主人を、ベイカーはいたって平静に受け流した。それどころか、更なる被害を生むまいと、肘掛け椅子に落ちたタブレットを回収までする落ち着きぶり。

「写真の出所は、レディ・キャロルのご友人でしょう。元の投稿は削除済みですが、イェオリが顔を覚えておりますので、写真提供への抗議を致します。レディ・キャロルとの間には何もないと、声明を出されますか?」

 できるわけねーだろ!

 噛みつこうとして振り返ったエリオットは、ベイカーの肩越しに顔色の悪いイェオリがいるのに気付いて、ぐっと言葉を飲み込んだ。

 経験豊富なベイカーはかんしゃくにも慣れているが、日の浅いイェオリはそうではない。そもそも慣れる慣れないの話ではなく、エリオットの怒りを彼らにぶつけていいはずがなかった。

「……ごめん……声明はいい」
「よろしいのですか」
「どうせ過剰反応って叩かれるだけだ。それにこっちが先に否定したら、キャロルに恥をかかせる」
「おそらく明日にでも、バジェット家がコメントを出すでしょう」

 ベイカーの言う通り、『たいへん恐れ多く、事実とは異なる報道に困惑しております』とでもコメントが出て、すぐに収束するはずだ。詳細など、わざわざ教えてやる必要もない。

 エリオットはため息をついて、窓の方を見る。ここから表の様子は分からないが、少なくともカメラの数は減っていないだろう。

「でも、あの中に出ていきたくないから、母さんとのランチは断る」
「承知いたしました」
「しばらくひとりにして」

 侍従たちが下がると、エリオットは扉をピッタリ閉めて寝室に籠城した。
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