上 下
295 / 334
番外編 重ねる日々

流星群(Twitter小話13)

しおりを挟む


 炎がゆれる、古めかしいランタンをひとつ足元に。灯りはそれだけ。

 ニット帽にマフラー、ダウンのコート。膝には毛布、それからブーツという装備でクラピアの上に敷いたキルトに座ったエリオットは、湯気を立てるマグで両手を温めながら鼻をすすった。

 中身は白で作ったホットワイン。蜂蜜とレモンで甘酸っぱく、たまにショウガのぴりっとした辛さとシナモンの香りが舌を刺激する。子どもの頃、ベイカーに作ってもらったのとは違う、大人の味だ。

「さっむ。鼻水垂れそう」
「誘ったのはお前だろう」

 同じように防寒仕様のバッシュが、足のあいだにいるエリオットの肩に後ろから顎をのせた。冷えた鼻先が頬に当たって、「ひゃっ」と声が出る。

「だって、絶好のタイミングじゃん」
「まぁな」

 警備のために屋敷の周りを照らしている照明が、点検の行われる数時間だけ消えると聞いて、エリオットはバッシュを真冬の天体観測に誘った。

 折しも、流星群が降る夜だ。少しくらい、ロマンチックな気分になってもいいだろう。

「お前、暗いところ苦手じゃなかったか?」

 屋敷の照明も最小限にしてもらったから、庭はランタンの灯りが届く範囲以外、濃淡があるだけの暗闇だ。

「それいま聞く?」

 ここまで手を繋いで歩いてきて、いまはしっかり両腕がエリオットを抱え込んでいる。それなのに、怖いもののことを考えろって?

 野暮なんだから。

 エリオットは丸めた背中で、転がるようにバッシュの胸にもたれかかった。

「うん、この鳩胸はあんたに間違いない」
「ダウン二枚挟んでるっつーの。お前、ちょいちょい筋肉好きが漏れてるぞ」
「ゴリマッチョと細マッチョのあいだが理想です」
「なんだそれ」
「イェオリが──あ!」
「流れた」

 針で刺したような星が散るキャンバスを、一瞬横切る光の筋。

 マグを置いて、バッシュの膝を叩く。

「見た? 見た?」
「あぁ」
「ほらまた!」

 ふたつ、みっつと、呼応するように流星が頭上に弧を描いては消えていく。きんと張り詰めた冬の空気を裂くような、美しい刹那が繰り返される天体ショー。

 二度と同じ軌跡をたどらない星々は、ひとの一生のようで。

 いまこの瞬間に、同じ光を見つめている奇跡を思った。

「……流れ星って燃えてるんだよな?」
「あの光は熱だからな。約三千度だ」
「あんなに冷たく見えるのに、ほんとは燃え尽きる寸前なんだね」

 ふしぎ。

 ふしぎだな。

 氷みたいに凍える頬を寄せ合って、ふたりは手の届かない熱の輝きを見つめていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます

はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。 睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。 驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった! そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・ フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...