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番外編 重ねる日々

流星群(Twitter小話13)

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 炎がゆれる、古めかしいランタンをひとつ足元に。灯りはそれだけ。

 ニット帽にマフラー、ダウンのコート。膝には毛布、それからブーツという装備でクラピアの上に敷いたキルトに座ったエリオットは、湯気を立てるマグで両手を温めながら鼻をすすった。

 中身は白で作ったホットワイン。蜂蜜とレモンで甘酸っぱく、たまにショウガのぴりっとした辛さとシナモンの香りが舌を刺激する。子どもの頃、ベイカーに作ってもらったのとは違う、大人の味だ。

「さっむ。鼻水垂れそう」
「誘ったのはお前だろう」

 同じように防寒仕様のバッシュが、足のあいだにいるエリオットの肩に後ろから顎をのせた。冷えた鼻先が頬に当たって、「ひゃっ」と声が出る。

「だって、絶好のタイミングじゃん」
「まぁな」

 警備のために屋敷の周りを照らしている照明が、点検の行われる数時間だけ消えると聞いて、エリオットはバッシュを真冬の天体観測に誘った。

 折しも、流星群が降る夜だ。少しくらい、ロマンチックな気分になってもいいだろう。

「お前、暗いところ苦手じゃなかったか?」

 屋敷の照明も最小限にしてもらったから、庭はランタンの灯りが届く範囲以外、濃淡があるだけの暗闇だ。

「それいま聞く?」

 ここまで手を繋いで歩いてきて、いまはしっかり両腕がエリオットを抱え込んでいる。それなのに、怖いもののことを考えろって?

 野暮なんだから。

 エリオットは丸めた背中で、転がるようにバッシュの胸にもたれかかった。

「うん、この鳩胸はあんたに間違いない」
「ダウン二枚挟んでるっつーの。お前、ちょいちょい筋肉好きが漏れてるぞ」
「ゴリマッチョと細マッチョのあいだが理想です」
「なんだそれ」
「イェオリが──あ!」
「流れた」

 針で刺したような星が散るキャンバスを、一瞬横切る光の筋。

 マグを置いて、バッシュの膝を叩く。

「見た? 見た?」
「あぁ」
「ほらまた!」

 ふたつ、みっつと、呼応するように流星が頭上に弧を描いては消えていく。きんと張り詰めた冬の空気を裂くような、美しい刹那が繰り返される天体ショー。

 二度と同じ軌跡をたどらない星々は、ひとの一生のようで。

 いまこの瞬間に、同じ光を見つめている奇跡を思った。

「……流れ星って燃えてるんだよな?」
「あの光は熱だからな。約三千度だ」
「あんなに冷たく見えるのに、ほんとは燃え尽きる寸前なんだね」

 ふしぎ。

 ふしぎだな。

 氷みたいに凍える頬を寄せ合って、ふたりは手の届かない熱の輝きを見つめていた。
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