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番外編 重ねる日々

ムーミンとちびエリー(Twitter小話9)

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ムーミンとちびエリー


「ベーカーは、スノークね」

 ひとを指さしてはいけませんよ、とやんわり手を下ろさせてから、ベイカーは腰を曲げて主人の小さな膝に広げられた児童書を覗き込んだ。

「わたくしが、なんです?」
「スノークだよ」

 挿絵のある本は、まだ単語のおぼつかないエリオットも十分に楽しめる。両親からクリスマスプレゼントに贈られたシリーズの全巻セットで、すでにベイカーも繰り返し読み聞かせをしていた。なので、ムーミントロールについて基本的な知識は持っている。

「ロダスは、お顔がまるいからトーテッキで、フランツは体がおおきいからヘレムン」

 なるほど、どうやら王子の新しい遊びらしい。

 ちなみにトゥーティッキは女性で、ヘレムンではなくヘムレンは個人名ではないのだが、それはおいおい説明するとしよう。

 しかし、後者ふたりの侍従をデザインからキャラクターに当てはめたのなら、自分のキャラクターのチョイスの理由も知りたくなる。

「なぜ、わたくしがスノークなのですか?」

 ベイカーが尋ねると、エリオットは本の上で人差し指をこねながら、少し恥ずかしそうに答えた。

「スノークは『しきり屋』なんだって。ラスがいってた。『しきり屋』っていうのはね、いろいろなことをかんがえて、みんながなにをするか決めるひとなんだよ。ベーカーも、ロダスとフランツがやることを決めるから、いっしょでしょ?」
「えぇ。ベイカーもいろいろと考えておりますし、ふたりに指示も出しますね」

 頷きながら、ベイカーはやや驚いた。

 子どもだと侮っていたつもりはなかったが、意外にもエリオットは侍従たちの関係性を理解している。役職上、仕切り屋といわれることは仕方がないが、あまりいい言葉とはいえない。小さな王子の目に自惚れ屋と映ることがないよう、己の行いに注意しなければ、と気を引き締めた。

「ところで、殿下はどのキャラクターですか?」
「ニョロニョロ」
「では、雷の日には気を付けなければなりませんね」

 身構えるふりをすると、エリオットは「ビリビリ~」と上げた両手の指を曲げて電気を表現した。

 おかわいらしい。

 ベイカーは早撃ちのようなスピードでジャケットから携帯電話を取り出すと、プライスレスな瞬間を写真におさめ、王妃付きの侍女頭へ送信した。


 殿下はキャラクターの名前で呼ぶ遊びをお気に召したのか、それから半月ほど我々をスノーク、トゥーティッキ、ヘレムンとお呼びになりました。ちなみに、間違いに気付かれる前に飽きてしまわれたので、フランツがヘムレンと呼ばれることは、ついぞございませんでした。
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