箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

文字の大きさ
上 下
132 / 334
世話焼き侍従と訳あり王子 第九章

4-1 黒幕

しおりを挟む
 騒ぎにはならなかった。
 少なくとも、その場では。

 バッシュが呼んだのは、数人の警護官とミシェルの侍女をひとり。警護官たちは事情も聞かないままヘクターを拘束し、意識のないままどこかへ運び出していった。晩餐会までに化粧と髪を直さなければならないので、ミシェルは侍女に任せる。

 残されたバッシュは、部屋を見回してエリオットに尋ねた。

「お前をひとりにして、ベイカーたちはなにしてる」
「ラスに貸してるんだよ。晩餐会の人手が足らないからって」

 エリオットは無残に破られたシャツを脱いで、ベイカーかイェオリが置いて行ってくれたものに着替える。いまさら、ぶつけた頭が痛みだして、指先で探ったらこぶができていた。

「人手が足らない? きょうのために一流ホテルからサービスを集めてるんだぞ。侍従を借り出すような不足はないだろう」
「知らないよ。ラスがそう言ったんだから、侍従長が作ったタイムテーブルにどっか穴でも……」

 あるわけなくない?

 パンツにシャツの裾を突っ込んで、エリオットはバッシュを見上げた。彼の怪訝そうな言い分は、侍従長への信頼に基づいている。

 外国の要人も参加する晩餐会。そこにフットマンでも臨時雇いのサービス係でもなく、上級職員の侍従がふたりもヘルプに出されるような人員の偏りがあれば、事前に計画自体見直されているはずだ。

 人員の配置に穴はない。では、どうしてふたりを借りたいなどと言ったのか。

「待って、なんか……」
「エリオット?」
「……ミリーが泣いてた」

 泣き虫ミリーが。

 それなのに、どうして一番にすっ飛んでくるはずの人物がいない?

 かっと頭に血がのぼって、エリオットは丸めたシャツを床に投げ捨てた。そして、壊れた扉に向かう。

「エリオット、どこへ行くんだ」

 数舜遅れて、バッシュが追いかけて来る。

「黒幕のところ」
「黒幕?」
「あのクソ兄貴だよ!」

 ああ、そうだ。あいつは「おおむね」善良だ。でもおれの兄だぞ。二面性の底がどこにあるかなんて、だれに分かる?

 廊下に飛び出したエリオットだったが、その行く手を遮るように、侍従がひとり立っていた。

 病院で見た覚えのある栗毛の侍従に驚いたのは、バッシュのほう。

「ジョージ、なぜここに」
「だれ?」
「侍従長です」

 あんたが、とつぶやくエリオットに、エドゥアルドより少し年かさに見える侍従長は、うやうやしく頭を下げた。

「ご無事でなによりです、殿下」
「どう言うことだ」

 エリオットより先に、バッシュが詰問する。

 いまこの場にいて、無関係なはずがない。以前、自分のあこがれだと言っていた相手だ。不審を抱くのは当たり前だろう。
 しかし侍従長は、足元に目を落としたまま、片手で廊下を示した。

「王太子殿下のもとへご案内いたします。お話は、そちらで」
「……分かった」

 問い詰めようとするバッシュを制して、エリオットは頷く。怒鳴りこんでくることを織り込み済みでワンクッション置いたなら、サイラスにはエリオットと話す気があると言うことだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...