箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第八章

6-4 展望

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 小屋にあったデファイリア・グレイは、すべて花壇へ植え替えた。
 雨が降れば散ってしまうし、これから真夏になればあっと言う間に枯れてしまうかもしれない。でも、これでいい。

 ガゼボのベンチに座って、エリオットはあの記者がどうなったのか聞いた。

「ひとまず、ストーカー容疑で警察に引き渡してある」

 エリオットの正面で腕を組んだバッシュが、看守のようにいかめしい顔つきで答える。

「あれだけハッキリ『殿下』って言っちゃったもんなー」

 転げ落ちたおれが悪いんだけど。

 エリオットがペロリと舌を出すと、バッシュは指先で眉をこする。

「咄嗟のことだったんだ、許せよ。それに、拘留は長くても二日が限界だろうが、それだけあれば広報と法務で対策を立てられる」
「二日か……」

 表に出てしまったスキャンダルの対応は面倒だが、まだ原稿になっているかも怪しい、記者ひとりのこと。王室がその気になれば、バッシュの言う通りいくらでも手を回すことができるだろう。

「おれ、公務に復帰したいと思ってる」

 なるべく深刻に聞こえないように、エリオットは説明した。

 あの記者を拘置所に入れておけるのは四十八時間。今回は握りつぶせたとしても、あの記者が諦めない限りいつかどこかで記事は出る。だったらその前に、同一人物ですとこちらから宣言してしまえばいいのだ。世界中が注目する舞台は、すでに整っている。

「それは、お前の本心か?」

 こんどはね、と頷く。

「それに、ずっと考えてたんだ。過去に起きたことは、どんなに目をつぶったっておれの一部で、その結果は間違いなくハンディになってる。でも、それがおれのすべてだと思いたくない。ここにいたら、いつまでも過去の自分しか見えないだろ」

 扉を開けてみたら、その先は新しいものが見えるかもしれない。そこにバッシュがいたように。

「……お前、復帰の話しをベイカーにしただろ」
「ん?」

 昨日、と補足されて、すぐ合点がいく。

「直接は言ってないけど」

 自分の立ち位置を決めるまで、十年。
 真意は伝わらなくてもいいと思ったが、ベイカーはちゃんと分かってくれた。さすが年の功。

「聞こえてたのか」
「そんなわけないだろ。去りぎわ、えらく浮かれてるようだったからな。思い当たるのはそれくらいだ」
「拗ねてるのか?」
「こんどは違うな」

 子どものころから仕えてる筆頭侍従に、勝てるなんて思っていない。
 そうぼやいたバッシュが、組んだ膝に頬杖をついた。

「だが、なにがお前を心変わりさせたのかは、興味がある」
「さぁ、なんだろうな」

 頼れる年上の保護者とか?


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