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世話焼き侍従と訳あり王子 第七章
3-2 天使?
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侍従からお墨付きをもらったエリオットは、抵抗を諦めてネクタイを外した。
「では、着方をご説明いたしますね! 衣装は仮縫いですので、くれぐれも扱いにはご注意ください」
ついたての向こうから次々飛んでくるお針子の指示通り、うっとりするくらい手触りのいいシャツと細身のパンツを身に着ける。それから足首まで隠れるローブを着て、最後にマントのような上着を羽織った。枚数は多くないし複雑な作りでもないのに、ちょっと引っ張ったら仮留してある布地が破れそうで、とにかく手こずった。
「襟の留め具で固定したら終わりです。こちらへどうぞ」
もうどうにでもなれ、と言う気持ちで、エリオットは観客の前に立った。
目を丸くしながらも感想を差し控えた侍従たちの横で、お針子が頬を押さえて息をつく。
「まぁ……」
「――これはこれは」
満足げに口の端を吊り上げたブランシェールが、色付きめがねを頭に押しやってエリオットを凝視した。
「まさにステンドグラスの天使ですね」
「まさかと思ったけど、やっぱりアレか」
着替えさせられたのは、淡いブルーの生地を使った祭服――聖職者が儀式で着用する衣装ーーだった。もちろん、本物ではない。オールグレンたち聖職者が身に着けるのは白や赤が主で、この衣装のような砂浜に映える海の色はあり得なかった。ただローブやマントのようなデザインは明らかに祭服をイメージさせるものだから、エリオットは冒涜にあたらないかと心配したし、ブランシェールもベイカーも事前に引っかかりそうな問題はクリアしたうえで、このデザインを押し通した。
「デザイン変更の申請が通ってから、どんなものにするかインスピレーションを得ようと、イサンドル大聖堂に行ったんです。そこで、あのステンドグラスを見ました」
ぐるりと回ってみるように指示して、ブランシェールが生き生きと語る。片足を軸にターンすれば、たっぷりとしたローブの裾がドレスのように揺れた。ただし、そう言ったものにエリオットはときめかない。
「神の子と聖母、実に示唆的ですね。金髪の王子と将来国母となる花嫁。そして、ふたりを祝福する天使。――まぁ、公爵はその野暮ったい髪をなんとかしてもらいたいものですけど」
余計なお世話だ。
「それで、祭服?」
「教会に遠慮してか、選帝侯の衣装は代々『貴族的』なデザインでした。ごてごてギラギラしたフロックコートみたいなね。でも選帝侯は本来、有力な諸侯か大司教だったわけです。しかも儀式の場は教会、こんなに祭服が似合う場所はありません。それに、貴族の恰好をした天使がどこにいるんです? 天使と言えば青のガウン、子どもだって知っていますよ」
もはや、初めてここを訪れたときの、ダサいイラストを並べたデザイナーはどこにもいない。エリオットをあらゆる角度から眺め、腕を上げては下げさせ、書斎の端から端まで歩かせては調整する場所を見つけてお針子にメモさせた。素人のエリオットにすればサイズはちょうどよく思えるのだが、詳細な採寸ができなかったからか、ブランシェールの目には直すべきところがたくさんあるらしい。
よっぽど『貴族的』な衣装を作るのは、気乗りしなかったんだな。
はからずも、ナサニエルと話した通り、ダサい衣装ではなく聖職者の恰好をすることになってしまった。しかもイメージが天使ときたものだ。
これ、この人がイメージだの着想だのの話しを公にしたら、おれがめちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃねーの?
お針子のメモが四ページ目に入ったところで、せめて儀式が終わるまで、ブランシェールの口をふさいでおくように頼んでおかなければとエリオットは思った。
「では、着方をご説明いたしますね! 衣装は仮縫いですので、くれぐれも扱いにはご注意ください」
ついたての向こうから次々飛んでくるお針子の指示通り、うっとりするくらい手触りのいいシャツと細身のパンツを身に着ける。それから足首まで隠れるローブを着て、最後にマントのような上着を羽織った。枚数は多くないし複雑な作りでもないのに、ちょっと引っ張ったら仮留してある布地が破れそうで、とにかく手こずった。
「襟の留め具で固定したら終わりです。こちらへどうぞ」
もうどうにでもなれ、と言う気持ちで、エリオットは観客の前に立った。
目を丸くしながらも感想を差し控えた侍従たちの横で、お針子が頬を押さえて息をつく。
「まぁ……」
「――これはこれは」
満足げに口の端を吊り上げたブランシェールが、色付きめがねを頭に押しやってエリオットを凝視した。
「まさにステンドグラスの天使ですね」
「まさかと思ったけど、やっぱりアレか」
着替えさせられたのは、淡いブルーの生地を使った祭服――聖職者が儀式で着用する衣装ーーだった。もちろん、本物ではない。オールグレンたち聖職者が身に着けるのは白や赤が主で、この衣装のような砂浜に映える海の色はあり得なかった。ただローブやマントのようなデザインは明らかに祭服をイメージさせるものだから、エリオットは冒涜にあたらないかと心配したし、ブランシェールもベイカーも事前に引っかかりそうな問題はクリアしたうえで、このデザインを押し通した。
「デザイン変更の申請が通ってから、どんなものにするかインスピレーションを得ようと、イサンドル大聖堂に行ったんです。そこで、あのステンドグラスを見ました」
ぐるりと回ってみるように指示して、ブランシェールが生き生きと語る。片足を軸にターンすれば、たっぷりとしたローブの裾がドレスのように揺れた。ただし、そう言ったものにエリオットはときめかない。
「神の子と聖母、実に示唆的ですね。金髪の王子と将来国母となる花嫁。そして、ふたりを祝福する天使。――まぁ、公爵はその野暮ったい髪をなんとかしてもらいたいものですけど」
余計なお世話だ。
「それで、祭服?」
「教会に遠慮してか、選帝侯の衣装は代々『貴族的』なデザインでした。ごてごてギラギラしたフロックコートみたいなね。でも選帝侯は本来、有力な諸侯か大司教だったわけです。しかも儀式の場は教会、こんなに祭服が似合う場所はありません。それに、貴族の恰好をした天使がどこにいるんです? 天使と言えば青のガウン、子どもだって知っていますよ」
もはや、初めてここを訪れたときの、ダサいイラストを並べたデザイナーはどこにもいない。エリオットをあらゆる角度から眺め、腕を上げては下げさせ、書斎の端から端まで歩かせては調整する場所を見つけてお針子にメモさせた。素人のエリオットにすればサイズはちょうどよく思えるのだが、詳細な採寸ができなかったからか、ブランシェールの目には直すべきところがたくさんあるらしい。
よっぽど『貴族的』な衣装を作るのは、気乗りしなかったんだな。
はからずも、ナサニエルと話した通り、ダサい衣装ではなく聖職者の恰好をすることになってしまった。しかもイメージが天使ときたものだ。
これ、この人がイメージだの着想だのの話しを公にしたら、おれがめちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃねーの?
お針子のメモが四ページ目に入ったところで、せめて儀式が終わるまで、ブランシェールの口をふさいでおくように頼んでおかなければとエリオットは思った。
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