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世話焼き侍従と訳あり王子 第六章

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「考えてみましたけど、やっぱりガウンは無理だと思います」

 儀式中の、エリオットの出番の話しだ。
 冠は頭に載せるだけだが、ガウンは肩にかけて前で留め具をはめ、形を整えなくてはならない。すべてをサイラスの体に触れずに済ませるのはまず不可能だ。なんどもイメージしてみたが、まったくできる気がしなかった。

「そうか。いま典司には、最初から衣装としてガウンを着てしまうのはどうかと提案している」
「そんなことができるんですか?」
「盛装にガウンは映えるから、観衆は喜ぶだろう。調べてみたら、そもそも儀式にガウンを用いるかは代によって異なっていてね。ここ数代は用いる方式が続いていて、王と言えば深紅、王太子と言えば濃紺のガウンとイメージが固まってしまっているが、扱いについては議論の余地がありそうだ」

 だったら早く言え!

 ガウンの授与がなくなるなら、エリオットの出番はかなり短くなる。残る問題は、冠とティアラだ。

「お前がパニックを起こさずにいられる距離は、向かい合って一メートルくらいだな」
「この間、ご自分で測ったでしょう」

 恨みがましくにらむと、肩をすくめて流された。

「手を伸ばせば、なんとか届くか」

 おっしゃる通りだよ、まったく動かないマネキンに冠を乗せるだけならな。

 実際は、新郎新婦の前に立つ。二人がひざまずき、侍従から冠を受け取る。冠とティアラをかぶせる。二人が立ち上がって観衆に向き直るあいだに退場、と言う流れだ。それを限界値である一メートル以内でやれと?

 卒倒するわ。

 もう教会の天井にクレーンを付けて、遠隔で冠をサイラスの頭に乗っけられればいいのに。もしくはドローンでもいい。

「つまり、わたしたちが動かなければいいんだな?」
「まだマシって程度だと思いますが」

 ふむ、と考え込んだサイラスは、侍従に声をかける。

「わたしたちがひざまずいてから、選帝侯が入場するのは可能か?」
「確認が必要かと存じます」
「すぐに」
「はい、殿下」

 侍従が会釈して退室すると、サイラスは指先でエリオットに立つよう指示する。

「わたしとミリーがお前に近づくのではなく、お前がわたしたちに近づくなら、少しは楽じゃないかと思ってね」

 で、近づいてみろって?

 エリオットはしぶしぶ立ち上がると、イェオリを振り返る。

「倒れたら、とりあえずおれの書斎まで運んどいて」
「…………」

 そんな分かりやすく「嫌です」って顔するなよ。

 無茶を止めたいと言う思いと、主人の意思を尊重しなければと言う思いに挟まれ返事をしかねたらしいイェオリが、わずかに立ち位置を変えた。本当にひっくり返ったら、受け止めてはくれるらしい。

 気絶してたら担がれても分かんねーしな。
 あぁでも、どっかのだれかは、それでもおれには触らなかったか。
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