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世話焼き侍従と訳あり王子 第六章

4-4 職務遂行に必要な範囲で開示します

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「……たしかに、ヘインズさまは負けず嫌いですね」

 言い逃げした主人にしっかりついて来たイェオリが、少々呆れたように言った。

 その接続詞おかしいな?

「だれが、おれのことを負けず嫌いだって言ってんの?」
「いえ、だれと言うわけでは」
「イェオリ」
「申し訳ございません、バッシュです」
「は? あいつとなにを話すんだよ。別チームだろ」
「はい。しかしわたくしどもは、連携を密にするため班の違う者とも懇意にしておりますので、個人的に話をすることも多くあります」

 あぁ、記者の件も情報が回るの早かったもんな。個人情報筒抜けか。

 ベイカーに恩を売って、エリオットの電話番号を聞き出したと言うようなことも言っていた。侍従長を含めても二十人くらいしかいない同僚だ。思っているより、侍従同士は気安い関係なのかもしれない。

 そのわりにサイラスの思惑が流れてこないのは、王太子のチームが口を閉ざしているか、サイラスが自身の侍従にさえ己の目的を明かしていないからか。

「特にバッシュからは、ヘインズさまのご様子について頻繁に尋ねられます。ベイカーも申しておりましたが、親しくなさっておいでなのですね」
「あいつの説得に負けて、選帝侯を受けたようなもんだから」
「さようでしたか」
「あいつも一時期だけ箱庭にいたらしくて、そのよしみもあるしな」

 あぁ、と珍しくイェオリがあいまいな相槌を打つ。

「わたくしは育った文化が異なるので知識としてしか存じ上げませんが、箱庭出身と言うのは一種のステータスなのですね」
「そうだな。親が社交界に出入りできる身分って証明だし、運が良ければ王族の子息と『お友達』になれる。うまくすれば、ミシェルみたいに将来の王妃や王配になれるかもしれない。貴族間でも、子どものうちにあそこで作ったパイプや力関係が、大人になってから効いて来る。閉鎖的だけど、内側にいるやつらにとっては重要なんだろ」

 たとえば貴族や上位中産階級が入り混じる場では、箱庭にいたと言えば無条件で「こちら側」だと歓迎されるし、そうでないなら「成り上がり」と見なされる。

 マーガレットが、エリオットの目撃者に自分と同年代を選んだのも、その共通認識を利用するためだ。

 七十代の彼らは、「ヘインズ公爵」が箱庭にいたかどうかを、直接は知る世代ではない。どこの家の子どもがいつ出入りしていたかなど、親世代までしか正確には覚えていないから当たり前だ。祖父母世代となれば、家族からの話しやうわさで聞く程度のことだから、自分たちの孫とヘインズ公爵が同世代と言う事実だけで、王太子やミシェルと選帝侯を務めるほどの親交が「あって当たり前」と勝手に認識してくれる。

「少なくとも、この場ではね」ってことか、大伯母さん。

 政治だなー、とエリオットは遠い目になる。

「ところで、あいつ、なんか変なこと言ってなかっただろうな」
「そうですね……お口が悪くなるのは照れ隠しだから、気をもむなと」
「……」
「あと、おみ足が少々やんちゃでいらっしゃるとも」

 よし、あいつ殴る。

「イェオリ」
「はい」
「あいつの前では耳をふさいでろ」
「努力いたします」
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