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世話焼き侍従と訳あり王子 第六章
2-2 祭典の裏側
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「当日、こちらの聖堂に招待を予定している方は千二百名ほどと伺っております。いますべて西向きに並んでいる椅子は、ご親族など特に位の高い方々の二百名ほどを、中央通路を挟んで向かい合うように配置する予定です」
「南側に殿下のご親族および政府関係者、北側がタウンゼント様のご親族ならびにご関係者となります」
オールグレンの説明を、ベイカーが補足する。
つまり残りの千人が、祭壇を向いて座るわけだ。まぁ、椅子が通路を向いているとは言え、儀式の進行中は祭壇にいる新郎新婦に視線が集まるのは間違いないのだが。
エリオットはがらんどうの身廊を眺め、この場を埋め尽くす人々を想像しようとした。
両親に叔父。外戚にあたるマイルズもここだ。普段は付き合のないハトコたち。首相を筆頭にした大臣や議員、貴族会の有力者。「それ以外」の席に座るのは、国内の大物俳優やスポーツ選手、勲章を持つような知識人たちか。
そして、全世界へ映像を発信するテレビカメラ。
気が遠くなってきた。
「残念ながら、公爵はこちらでのんびりと儀式をご覧にはなれませんが」
言いながら、オールグレンはガウンの裾を引きずって北側の袖廊へ歩き出す。
いや、残念でもなんでもないです。むしろ喜ばしい……と言ったらさすがにアウトか。
「選帝侯の控室はこちらになります」
オールグレンが示したのは、袖廊にあるアーチ型の扉だった。
ガウンから古そうな鍵を取り出してドアノブ下の穴に差し込むと、重厚な金属音がする。ぎいっと音を立てて扉が開いた。
中を覗くと、フラットの屋上にある小屋より一回り狭いくらいの、窓もない殺風景な部屋。牢獄のようだ。
「聖具の保管庫ですか?」
「さようです。通常は、聖杯などミサに使用する聖具の保管に使用しております。ご成婚の儀のため、いまは別のところで管理をしておりますが、当日はこちらで待機していただくこととなります」
「閉所恐怖症では、選帝侯は務まりませんね」
エリオットが言うと、オールグレンは体を揺するように笑う。
「儀式の最初から冠やガウンを祭壇に置いておくわけにもいきませんし、選帝侯が参列者の席から現れるわけにもいきませんからね」
そりゃそうだ、フラッシュモブじゃないんだから。
「当日、こちらの扉は開けた状態になります。目隠しにはカーテンを取り付ける予定ですので、いまよりは閉塞感は軽減されるかと」
「と言うことは、もしかして会場入りは……」
「一番乗りでお願いいたします」
トイレにも行けないじゃないか。
「朝のお茶は一杯で我慢します」
心底うんざりした声を出すと、今度こそオールグレンが口を開けて大笑いした。
うん、気のいい爺さんだな。嫌いじゃない。
「南側に殿下のご親族および政府関係者、北側がタウンゼント様のご親族ならびにご関係者となります」
オールグレンの説明を、ベイカーが補足する。
つまり残りの千人が、祭壇を向いて座るわけだ。まぁ、椅子が通路を向いているとは言え、儀式の進行中は祭壇にいる新郎新婦に視線が集まるのは間違いないのだが。
エリオットはがらんどうの身廊を眺め、この場を埋め尽くす人々を想像しようとした。
両親に叔父。外戚にあたるマイルズもここだ。普段は付き合のないハトコたち。首相を筆頭にした大臣や議員、貴族会の有力者。「それ以外」の席に座るのは、国内の大物俳優やスポーツ選手、勲章を持つような知識人たちか。
そして、全世界へ映像を発信するテレビカメラ。
気が遠くなってきた。
「残念ながら、公爵はこちらでのんびりと儀式をご覧にはなれませんが」
言いながら、オールグレンはガウンの裾を引きずって北側の袖廊へ歩き出す。
いや、残念でもなんでもないです。むしろ喜ばしい……と言ったらさすがにアウトか。
「選帝侯の控室はこちらになります」
オールグレンが示したのは、袖廊にあるアーチ型の扉だった。
ガウンから古そうな鍵を取り出してドアノブ下の穴に差し込むと、重厚な金属音がする。ぎいっと音を立てて扉が開いた。
中を覗くと、フラットの屋上にある小屋より一回り狭いくらいの、窓もない殺風景な部屋。牢獄のようだ。
「聖具の保管庫ですか?」
「さようです。通常は、聖杯などミサに使用する聖具の保管に使用しております。ご成婚の儀のため、いまは別のところで管理をしておりますが、当日はこちらで待機していただくこととなります」
「閉所恐怖症では、選帝侯は務まりませんね」
エリオットが言うと、オールグレンは体を揺するように笑う。
「儀式の最初から冠やガウンを祭壇に置いておくわけにもいきませんし、選帝侯が参列者の席から現れるわけにもいきませんからね」
そりゃそうだ、フラッシュモブじゃないんだから。
「当日、こちらの扉は開けた状態になります。目隠しにはカーテンを取り付ける予定ですので、いまよりは閉塞感は軽減されるかと」
「と言うことは、もしかして会場入りは……」
「一番乗りでお願いいたします」
トイレにも行けないじゃないか。
「朝のお茶は一杯で我慢します」
心底うんざりした声を出すと、今度こそオールグレンが口を開けて大笑いした。
うん、気のいい爺さんだな。嫌いじゃない。
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