箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第六章

1-2 あくまで趣味なので

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「ねぇ、アレク。あなたもそう思わない?」
「はい陛下。わたくしは幸運にもヘインズ公の庭園を拝見する機会に恵まれましたが、王宮の庭師も顔負けの腕前でいらっしゃいます」

 やめろバカ。母さんがその気になったらどうしてくれる。デートスポットや遠足の目的地を作るつもりなんて、これっぽっちもないからな。

「素晴らしいわ」
「下手の横好きです」
「好きこそものの上手なれとも言うでしょう。いいじゃない」

 にこにこ笑うフェリシアに、エリオットは若干引きつった愛想笑いを返した。

 ふと強い視線を感じて目を上げれば、ワゴンから焼き菓子を取り分けていたバッシュが、不自然に手を止めてこちらを凝視している。「なんだよ」と無言で問うと、トングをさばくのに忙しいふりをしてあからさまに目をそらされた。

 なんだそれ、ケンカ売ってんのか。

 おもしろくないが、ヘインズ公爵として王妃の前で侍従を締め上げるわけにもいかない。仕方がないので指先で呼びつけ、お茶のおかわりを所望した。

「ところで、記者とトラブルになったと聞いたのだけれど」
「トラブルと言うほどのものでは。街歩きをしていたら、アポイントもなく直撃されたんです。お借りしている侍従のおかげで、難を逃れました」

 バッシュと同じく、イェオリの報告はフェリシアの耳にも入っているのだろう。それでもエリオットの口から大したことではないと聞いてほっとした様子だった。

「わたしが誰かも知らないようで。こちらへお邪魔したとき、ミシェル嬢の車に拾っていただいたのを見られていて、どう言う関係なのかと」
「まったく。成婚の儀が近いものだから、ミリーに関する報道が過熱しているのよ。ひどい記事まで出てくる始末で、そろそろくぎを刺さないとと思っていたのだけれど」
「……ヘクター卿とのうわさですか?」

 尋ねると、フェリシアはメリル・ストリープばりのオーバーアクションで、ぐるりと目を回す。

「嫌だわ、あなたまで知っているなんて。誤解しないでちょうだい、ミリーとヘクター卿に関係があったなんて、根も葉もないうわさよ。ただ……」
「ただ?」
「どうも、あの子はヘクター卿が苦手なようなの。それで、なにかのインタビューで話を濁したら邪推されたみたい」
「それはお気の毒に」

 マスコミは歓喜しただろうが。

「全人類が苦手なわたしのような者から言わせれば、たったひとりしか苦手な人間がいないミシェル嬢は称賛に値しますね」

 エリオットが肩をすくめると、息子の自虐を笑っていいものか、気づかいに感謝するべきか、非常に苦慮した顔でフェリシアが頭を振った。

「ヘクター卿は現在、フランス在住でしたね」
「えぇ。いまちょうどエドが訪問しているわ。来週の頭には戻るけれど、ついでだから弟を拾ってくると言っていたわね」

 甥っ子の結婚式に王室専用機で帰国か、外国暮らしの王弟はリッチだな。

 将来、サイラスが即位したら、ヘクターのように外国へ移住するのもありかもしれない。ヨーロッパでは近すぎるから、カナダあたりで。マスコミと国民がエリオットの存在を忘れ去ったころ、甥か姪の結婚式でひょっこり帰って来るくらいの付き合い。

 意外といいかも。

「あなた個人に、警護官を派遣するべきかしら?」

 そう尋ねながら、フェリシアはバッシュが差し出した皿からマドレーヌとスコーンを取る。エリオットはエッグタルトを取って、ありがたい申し出を断った。
 部屋の外にはイェオリが控えている。腕っぷしの強さはこの目で見たし、気まぐれのように頼んだワイシャツも翌日には手配してくれた優秀な侍従だ。

「腕の立つ侍従がいますから。ただ、カルバートン宮殿にも張っている記者がいるようなので、『殿下』の周囲は少し警戒したほうがいいかもしれません」
「そうするわ、ありがとう」
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