箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第六章

1-1 お茶会

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 深夜に電話で話しをした数日後。招かれたお茶の席で、ワゴンの横に立つミスター・ダビデを見つけたエリオットは盛大に顔をしかめた。

 あんたはいつから王妃の侍従になったんだ。

「彼はたしか、殿下の侍従では?」

 水色のブラウスにショールを巻いたフェリシアが、向かいの椅子で鷹揚にうなずく。

「アレクね? ええ。でもお茶をいれるのが上手だと聞いたから、きょうだけ無理を言って来てもらったの」

 余計なお世話です母さん。

 フェリシアとしてはなんの含みもなく、息子が褒めていた侍従の腕前が気になったと言うだけだろうが、予想外のところに出没されると心臓に悪い。

 まぁ、王妃の覚えもめでたくなるなら本人としては万々歳だろうけれど。

「いただいた花、とてもきれいだったわ。枯れてしまうのがもったいないのだけれど、長持ちさせる方法はあるかしら?」
「切り花はどうしても萎れてくるので、いっそドライにしてポプリを作るのはいかがですか。量が足りなければ、またラベンダーをお持ちします」
「名案だわ。ぜひお願い」

 フェリシアが肩に落ちて来たシルバーグレイの髪を払ったところで、バッシュがお茶を運んできた。スプーンを添えたカップと砂糖のポットをフェリシアの前に置く。砂糖を入れるのはその時々の気分だから、先に入れられるのを好まないと言うことを承知している侍従に、王妃は満足そうに目を細めた。

 そしてエリオットには、氷を二つ入れたカップ。

 白磁に金の彩色を施した華奢な取っ手をつまみ、フェリシアがカップを傾ける。
 すました顔をしているバッシュより、なぜだかエリオットのほうが緊張した。
 失敗するはずがないと分かっていても、不本意ながら紹介した形になる以上、自分の採点を待つ気分だ。

「あら、本当に上手ね。メイドへの講師を頼もうかしら」
「光栄です、陛下」

 バッシュが丁寧に頭を下げる。エリオットはテーブルの下で、ぐっと手を握った。

 よほど気に入ったのか、フェリシアは早々にカップを空けて二杯目を要求する。ティータイム専属の侍従として取り上げられないよう、サイラスに忠告が必要かもしれない。

「ヘインズ公。マイルズから聞いているけれど、あなたは栽培だけでなく、植物の研究もしているんですって?」
「研究と言うほど立派なものではありません」
「ご謙遜ね。植物園や公園を作る気はなくて?」

 えらい飛躍したな。

 エリオットは左手に持ったソーサーにカップを下ろし、首を振る。

「……いえ、とてもそんな」
「いいと思うわよ? ほら、二年前に陛下の名前も空港になったでしょう?」

 エドゥアルド国際空港。国王夫妻がテープカットをして華々しく開港したシルヴァーナで一番新しい空港だが、エントランスに二メートルを超える金の卵のオブジェがあるせいで、当初から「エッグ空港」と言う愛称のほうが有名だ。

 エリオット記念植物園。もしくはエリオット記念公園。また微妙に語感がいいんだか悪いんだか。
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