箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第五章

1-1 ゆううつな新生活

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 すっきりしない天気だったが、曇り空で気温も上がらないから庭仕事にはありがたい。

 エリオットは朝から屋上で花壇の草取りに精を出していた。軍手をした左手を土について体を支え、右手でビオラの間に生える細い草をむしる。鳥や虫が運ぶのか、地上ほどではないものの植えた覚えのない雑草があちこちから芽を出しているのだ。

 王宮にはあれから数度、ベイカーから連絡が入って呼ばれた。いずれも午後の短い時間で、式次第の確認や挨拶が必要な人物のリストアップなど、こまごまとした雑事のためだった。ベイカーに言わせると、エリオットに儀式の意義やら選帝侯の歴史やらの知識がある分、お勉強に割く時間が短縮されてスケジュールは詰まっていないらしい。

 しかし予告されたところによると、来週、六月に入ったら一気に忙しくなる。いまは王宮でのんびりお茶を飲みながら侍従と打ち合わせをしているだけだが、今後は式が行われる教会や宮殿のほうへ出向かなければいけない用件があるのだかとか。名刺はいるかと冗談を言ったら、「わたくしどもがご紹介申し上げますので、ご用意いただかなくともけっこうでございます」と真顔で返された。

 ただ冠とティアラ被せて終わり、じゃないんだよなぁ。当たり前だけど。

 王室では一に段取り二に段取りと、とにかく細かいところまで事前に整えたタイムテーブルにのっとって動くことが必要とされている。よくニュースで「国王が予定時間を越えて国民とのふれあいを……」などと言ってるが、あれだってどれくらいまでならオーバーできるのか、あらかじめ秒単位で計算されている。

 王族の仕事は、ストップウォッチを握る責任者に迷惑がかからないよう、ベルトコンベアーの上を滞りなく流れていくことだ。それもとびきりチャーミングな笑顔で。

 十二歳まで、人前に出ること以外は王子として不足のない教育を受けたので、エリオットもそのあたりはよくよく承知している。

「気が重い……」

 ため息をついて、エリオットは体を起こした。昼過ぎにベイカーが迎えに来るから、この辺りで切り上げて着替えなければならない。土のついた膝を払い、むしった雑草を寄せて掴むと、ハウスわきのコンポスターに放り込んで回転させておく。

 腰を叩きながらぐるりと庭を眺めた。今年は寒色寄りで作った初夏の庭が、ちょうどいい頃合いになっている。やはりラベンダーが色も香りも目立つが、タワーのように花をつけるデルフィニウムがコニファーとの間をうまく取り持っているし、こんもりと花壇を覆うビオラやポーチュラカが視線を途切れさせずに一体感を持たせている。

 とは言え、ピークは過ぎているから、もう少ししたら植え替えと切り戻しをして夏を越える準備をしなければならない。時期に合わせた花を、時期に合わせて管理する。段取りが大事なのは庭も一緒だ。

 ふと思い立って、エリオットはビニールハウスからハサミを取って来ると、いくつか形よく咲いている花を選んで切り取った。

 部屋に戻り、束ねた茎の根元を濡らしたティッシュで巻いて、上からアルミホイルをかぶせる。セロファンや包装紙なんてものはないので、読み終わった新聞からなるべくお堅い紙面を選んでくるんだ。
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