68 / 334
世話焼き侍従と訳あり王子 第五章
1-1 ゆううつな新生活
しおりを挟む
すっきりしない天気だったが、曇り空で気温も上がらないから庭仕事にはありがたい。
エリオットは朝から屋上で花壇の草取りに精を出していた。軍手をした左手を土について体を支え、右手でビオラの間に生える細い草をむしる。鳥や虫が運ぶのか、地上ほどではないものの植えた覚えのない雑草があちこちから芽を出しているのだ。
王宮にはあれから数度、ベイカーから連絡が入って呼ばれた。いずれも午後の短い時間で、式次第の確認や挨拶が必要な人物のリストアップなど、こまごまとした雑事のためだった。ベイカーに言わせると、エリオットに儀式の意義やら選帝侯の歴史やらの知識がある分、お勉強に割く時間が短縮されてスケジュールは詰まっていないらしい。
しかし予告されたところによると、来週、六月に入ったら一気に忙しくなる。いまは王宮でのんびりお茶を飲みながら侍従と打ち合わせをしているだけだが、今後は式が行われる教会や宮殿のほうへ出向かなければいけない用件があるのだかとか。名刺はいるかと冗談を言ったら、「わたくしどもがご紹介申し上げますので、ご用意いただかなくともけっこうでございます」と真顔で返された。
ただ冠とティアラ被せて終わり、じゃないんだよなぁ。当たり前だけど。
王室では一に段取り二に段取りと、とにかく細かいところまで事前に整えたタイムテーブルにのっとって動くことが必要とされている。よくニュースで「国王が予定時間を越えて国民とのふれあいを……」などと言ってるが、あれだってどれくらいまでならオーバーできるのか、あらかじめ秒単位で計算されている。
王族の仕事は、ストップウォッチを握る責任者に迷惑がかからないよう、ベルトコンベアーの上を滞りなく流れていくことだ。それもとびきりチャーミングな笑顔で。
十二歳まで、人前に出ること以外は王子として不足のない教育を受けたので、エリオットもそのあたりはよくよく承知している。
「気が重い……」
ため息をついて、エリオットは体を起こした。昼過ぎにベイカーが迎えに来るから、この辺りで切り上げて着替えなければならない。土のついた膝を払い、むしった雑草を寄せて掴むと、ハウスわきのコンポスターに放り込んで回転させておく。
腰を叩きながらぐるりと庭を眺めた。今年は寒色寄りで作った初夏の庭が、ちょうどいい頃合いになっている。やはりラベンダーが色も香りも目立つが、タワーのように花をつけるデルフィニウムがコニファーとの間をうまく取り持っているし、こんもりと花壇を覆うビオラやポーチュラカが視線を途切れさせずに一体感を持たせている。
とは言え、ピークは過ぎているから、もう少ししたら植え替えと切り戻しをして夏を越える準備をしなければならない。時期に合わせた花を、時期に合わせて管理する。段取りが大事なのは庭も一緒だ。
ふと思い立って、エリオットはビニールハウスからハサミを取って来ると、いくつか形よく咲いている花を選んで切り取った。
部屋に戻り、束ねた茎の根元を濡らしたティッシュで巻いて、上からアルミホイルをかぶせる。セロファンや包装紙なんてものはないので、読み終わった新聞からなるべくお堅い紙面を選んでくるんだ。
エリオットは朝から屋上で花壇の草取りに精を出していた。軍手をした左手を土について体を支え、右手でビオラの間に生える細い草をむしる。鳥や虫が運ぶのか、地上ほどではないものの植えた覚えのない雑草があちこちから芽を出しているのだ。
王宮にはあれから数度、ベイカーから連絡が入って呼ばれた。いずれも午後の短い時間で、式次第の確認や挨拶が必要な人物のリストアップなど、こまごまとした雑事のためだった。ベイカーに言わせると、エリオットに儀式の意義やら選帝侯の歴史やらの知識がある分、お勉強に割く時間が短縮されてスケジュールは詰まっていないらしい。
しかし予告されたところによると、来週、六月に入ったら一気に忙しくなる。いまは王宮でのんびりお茶を飲みながら侍従と打ち合わせをしているだけだが、今後は式が行われる教会や宮殿のほうへ出向かなければいけない用件があるのだかとか。名刺はいるかと冗談を言ったら、「わたくしどもがご紹介申し上げますので、ご用意いただかなくともけっこうでございます」と真顔で返された。
ただ冠とティアラ被せて終わり、じゃないんだよなぁ。当たり前だけど。
王室では一に段取り二に段取りと、とにかく細かいところまで事前に整えたタイムテーブルにのっとって動くことが必要とされている。よくニュースで「国王が予定時間を越えて国民とのふれあいを……」などと言ってるが、あれだってどれくらいまでならオーバーできるのか、あらかじめ秒単位で計算されている。
王族の仕事は、ストップウォッチを握る責任者に迷惑がかからないよう、ベルトコンベアーの上を滞りなく流れていくことだ。それもとびきりチャーミングな笑顔で。
十二歳まで、人前に出ること以外は王子として不足のない教育を受けたので、エリオットもそのあたりはよくよく承知している。
「気が重い……」
ため息をついて、エリオットは体を起こした。昼過ぎにベイカーが迎えに来るから、この辺りで切り上げて着替えなければならない。土のついた膝を払い、むしった雑草を寄せて掴むと、ハウスわきのコンポスターに放り込んで回転させておく。
腰を叩きながらぐるりと庭を眺めた。今年は寒色寄りで作った初夏の庭が、ちょうどいい頃合いになっている。やはりラベンダーが色も香りも目立つが、タワーのように花をつけるデルフィニウムがコニファーとの間をうまく取り持っているし、こんもりと花壇を覆うビオラやポーチュラカが視線を途切れさせずに一体感を持たせている。
とは言え、ピークは過ぎているから、もう少ししたら植え替えと切り戻しをして夏を越える準備をしなければならない。時期に合わせた花を、時期に合わせて管理する。段取りが大事なのは庭も一緒だ。
ふと思い立って、エリオットはビニールハウスからハサミを取って来ると、いくつか形よく咲いている花を選んで切り取った。
部屋に戻り、束ねた茎の根元を濡らしたティッシュで巻いて、上からアルミホイルをかぶせる。セロファンや包装紙なんてものはないので、読み終わった新聞からなるべくお堅い紙面を選んでくるんだ。
56
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる