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世話焼き侍従と訳あり王子 第四章

3-4 根回しと直球(第四章 終)

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「オーナーの尻をお針子が叩くのか?」
『愛のムチだよ、コマドリ』
「ふーん」

 パワハラでなければ人さまの職場環境に興味はないので適当に返し、エリオットはラザニアにフォークで切れ目を入れた。アルミ皿がつまめるくらいには冷ましたが、板状のパスタの間から、ほわりと湯気が立つ。

『ところで、「エリオットさま」は、とてもお優しいんだね』
「……なんの話?」

 ミートソースに絡めたゴムみたいなパスタを、口に運びかけて止める。

『同い年の親戚をフォローするために、自分の筆頭侍従をヘルプで派遣したそうじゃない』
「あぁ、なるほど」

 そう言うことになってるわけか。

 二人の「エリオット」は、いちおうヘインズの血筋として関係がある――とされている――から、兄の結婚式で大役を務める親類のために、信頼を寄せる使用人を遣わす理由にはなる。しかも主人から「貸し出された」体にすることで、第二王子が離宮にいることを補強できる、二度おいしい策だ。

『万一、きみが王子として選帝侯を務めることになったら、本当はお忍びでハウスに戻っていた『殿下』の供をしていただけでした、と筋を書き変えるつもりなんだろうね。まったく、きみの周りは優秀で過保護な人間が多い』
「そうだよ。どうせおれは世間知らずの引きこもりだから、必要なことは周りが決めてる」
『いつになく後ろ向きだね。あのハンサムとケンカでもしたの?』

 どうしてこう、どいつもこいつも。

 エリオットは顔をしかめ、乱暴に背もたれへ倒れこむ。

「してない。むしろ友人宣言された」
『まさかフラれたってこと? だからやけになって王宮へ?』
「違う」
『ヒヨコちゃん、それはどっちの否定かな?』

 どっちもだよ、ちくしょう。

「やけにもなってないし、フラれてもない。フラれるような関係にすらなってない」
『――つまり、きみの片思いなんだね』

 それまでの、からかうような色を引っ込めたナサニエルの声があまりに優しかったので、エリオットはフォークを噛みしめた。万人受けする味の濃いミートソースが舌に貼りついて、食べる前から胃がもたれる。
 バッシュが作ったスープが飲みたかった。
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