箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第四章

2-5 それは愛だったはずのエゴ

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「あなたが王宮に向いていないことは、小さいころから分かっていたわ。それが単なる努力で克服できるものではないことも、克服を強いるべきでないことも」
「母さんからも父さんからも、人前に立てと強要された覚えはないよ」

 もちろんサイラスも。出席すべき式典の前には必ず頭痛や腹痛を起こすエリオットを、引きずって連れて行くようなことは一度だってなかった。

「でも本当にあなたを思うなら、他に方法はあったのよ」
「方法?」
「幼いうちに、ヘインズ家へ養子に出すと言う話があったわ。わたしが一人娘だから、公爵家の後継にすると言う理由でね。ヘインズほどの家格なら、一代くらい社交界に関わらなくても大した問題ではないと、父も、当時健在だった母も賛成していたの」

 初めて聞く話だった。しかし同時に納得もする。身を隠すためにしても、秘密裡に王子を受け入れるにしては双方の手際がよすぎたのだ。マイルズはなにも教えてくれなかったけれど、事前に打診があったなら不思議でもない。
 とんでもない甘やかされぶりだ。周囲がそこまで考えなければならないほど、エリオットが目も当てられない子どもだったと言うことか。

「どうして、そうならなかったの?」
「わたしが、あなたを手放せなかったのよ。わたしの子どもだもの」

 フェリシアが、膝の上で組んだ手にぎゅっと力を入れる。子どものための最善を取らなかったおのれを、恥じているようだった。

 そんな必要ないのに、と歯がゆく思う。

 相手の最善が、自分の最善でもあるなんてことが、この世界にどれくらい存在すると言うのだろう。
 間違いなく自分を愛してくれていた母の手を握ってやりたいと願っても、スツール一つ分の距離が途方もなく遠いように。

「王になるのではないのだから、無理に表舞台に立たせず様子を見ようだなんて親のエゴを通したばかりに、あなたを傷つけてしまった」

 目じりに走った一瞬の揺らぎは、かつては絵の具で色づいていたであろう指先でぬぐい去られる。フェリシアの毅然とした面持ちは崩れず、泣いてはいなかった。

「わたしとエドは、あなたが戻らないまま王位継承権の放棄を申し出ても、受け入れるつもりでいたの。だから、選帝侯の件は本当に驚いているわ」

 無理をしているのではない? と問われて、頭を振る。

 無茶だとは思うけど、縄つけて引きずられてきたわけじゃないし。
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