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世話焼き侍従と訳あり王子 第四章

2-4 緑の絵画

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 エリオットは答え合わせをしようとタイトルのプレートを探したが、壁にはシンプルな額に切り取られた油彩画しかかかっていない。それどころか、この絵のどこにも作者のサインが入っていなかった。

「この絵は……」
「わたしが描いたのよ」

 学生のころにね、とフェリシアは目を細めた。

「場所まで言い当てたのは、あなたが初めて。周りの友人も教授もどこの森かって尋ねるし、エドに至っては『上下が逆では?』なんて言われたわね」

 やらかしたな、父さん。素直さがほめられるのは五歳までだぞ。

 フェリシアが大学で美術史を専攻していたことは、いかにも公爵令嬢らしい経歴として有名だが、絵画も学んでいたとは知らなかった。

「子どものころから絵が好きで、画家になりたかったのよ。でも、エドと真剣に付き合うと決めたときにやめたわ」

 公務と制作活動の両立が容易でないことは、想像に難くない。趣味程度なら続けられただろうけど、フェリシアにとってそれでは意味がなかったのだろう。
 このギャラリーは、夢を捨てて王室に嫁いだ母へ、父なりの罪滅ぼしと言うことか。

 それって、むしろ残酷な気もするけど。

 二度と手の届かない過去の輝きを、いつまでもきれいに飾っておかれるなんてエリオットは耐えられない。

「サイラスと同じ顔をしているわね」

 父親への不満が表情に出ていたらしい。フェリシアはおかしそうに笑った。

「あの子も、無神経だとエドに怒っていたわ。ああ言う子だから、本人に向かって言うことはなかったけれど」

 おれだって言わないよ。

 ただでさえ親子関係に十年のブランクがあるんだから、今から溝を掘り進めるようなことはごめんだ。

「母さんは、どう思ってるの?」
「あの人のことだから、そんなに深く考えていないわね。美術が好きで、絵を描いていたなら、それを飾る部屋があるといいんじゃないか、とでも思いついたんじゃないかしら」

 この人、なに気に辛らつだな。

「良くも悪くもまっすぐな人よ。間違っても愚かではないし、家族と国民を愛している素晴らしい王。ただ、『そうある』ことに疑問を持たずに育ってしまったのは、個人として不幸だったのか、それとも他の道がない王子には幸せだったのかと、ときどき考えてしまうのよ。――あなたのことがあって余計に」

 冷たい指先で背を撫でおろされたように、ひやりと息が詰まった。
 これが本題か。
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