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世話焼き侍従と訳あり王子 第四章

1-6 ニュースサイトにご用心

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 本音を言えば、世話係はベイカーだけでよかった。しかし彼の年齢を思うと、身軽な者がいると助かるだろう。つど、そのあたりのよく知らない使用人に声をかけるより、専任で置いておくほうがエリオットの精神的な負担も減る。

 しょうがないか。

「イェオリ、聞いてるかもしれないけど、おれからは二メートルくらい離れててほしい。椅子も引かなくていいし、ジャケット着るのも手伝わなくていい。側に寄られるのが苦手なんだ」

 人見知りなの、と可愛い子ぶるようで辟易する。それでもバッシュのときのような「事故」は避けたかった。
 あらかじめ言っておけば留意するだろうし、あとからベイカーが念押ししてくれるだろう。

「かしこまりました」

 しっかり頷くのが生真面目な優等生と言ったところで、間違ってもエリオットを『ニート公爵』なんて呼びそうにはない青年だ。

 打ち合わせなどがあるときは、どちらかがフラットまで送迎することをベイカーから告げられたので、今度こそ目立たなさそうな車を希望しておいた。
 顔合わせの最後に、連絡用にスマートフォンの番号の交換を終えると、侍従たちはあいさつをして下がる。

「くれぐれも扉と窓の施錠をお願いいたします。ハウス内は警備が巡回しておりますが、非常時にはベルでお知らせください。ご用のときは内線電話がございます」

 去りぎわ、ベイカーは神妙な顔でそう言った。常に使用する部屋でもないのに、王の寝室並みのセキュリティ。過剰な防犯にも思えるが、過去に起こったことを考えれば仕方のない措置か。

 エリオットは言われた通りに内側から鍵を閉め、バスルームでシャワーだけ浴びた。きょう一日でいろんなことがありすぎて、湯船につかったらすぐにでも眠ってしまいそうだ。

 寝室へは行かず、長椅子に座ってスマートフォンでニュースをチェックする。王室関係の記事を探すと、ミシェルが王宮を訪れたことが写真付きでアップされていた。

 どきりとしたけど、映っているのは運転席側を歩道から撮った絵で、窓ガラスがフルスモークなうえ、もともとチェックで車が止まるところだから、エリオットを拾った一幕は気づかれなかったようだ。これを撮ったカメラマンが助手席側にいたら、王太子妃が謎の男を乗せたと、ゴシップ紙の一面を飾るところだった。

「危なかった……」

 フラットまで送り迎えしてもらえるのは正解だ。王宮へ出入りするとなると、どこでパパラッチに目を付けられるか分からない。

 エリオットはニュースサイトを閉じると、今度は王室の広報が公開している家族の動静へ飛ぶ。

 エドゥアルドは一昨日からEUのいくつかの国に外遊中。フェリシアが現代美術館の特別展を観覧、サイラスは国立公園の視察と陸軍基地への表敬訪問があったようだ。二人とも午後には王宮に戻り、その後のスケジュールにキャンセルがあったとは書いていないから、エリオットの来訪が公務の妨げになった様子はない。こちらもラッキーだった。

 半分しか充電していなかったバッテリーが残り三割を切ったところで、エリオットはスマートフォンの電源を落とす。

 計ったようなタイミングで、誰かがドアをノックした。
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