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世話焼き侍従と訳あり王子 第三章

3-3 初恋のおわり

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 目が覚めたら石造りの白い丸天井があって、あの箱庭にいるのかと錯覚した。

 何度か瞬きすると、それがエリオットの庭のガゼボだと分かり、自分がここに横になっている理由も思い出す。

 あたりをうかがうと、バッシュがいない。雷鳴は遠のき雨も小降りになっているが、エリオットに触れないと約束した手前、部屋まで担いでおりるわけにはいかなかったのだろう。

「衝撃の展開だな」

 まさに青天のへきれき。

 サイラスは、バッシュが箱庭にいたこと、エリオットと仲が良かったことを知っているのだろうか。

 知ってるんだろうな。

 いくら人気のない場所で会っていたと言っても、あそこは厳重に管理された王宮の庭。幼い王子が誰と交流しているのかくらい、監督する大人は把握していたに決まっている。

 だから、昇進するなりメッセンジャーボーイに選ばれたわけだ。

 あの様子では、本人は何も知らされていなかったようだが。

 エリオットは硬くて狭い座面に、胎児のように膝を抱えて丸くなる。

 王族として生まれた以上、エリオットはこのままズルズルと責任から逃れることはできない。今後、王子として公務に復帰するにしても王室から身を引くにしても、どこかでけじめをつけなければいけない時期に来ていた。そこへ当時では唯一、弟の友人と認識されていた人物が侍従となって現れたのだ。
 偶然かどうかは分からないが、タイミングとしてはかみ合った。サイラスは、子どものころに懐いていた相手なら、またエリオットと友人になってくれるかもしれないと考えたのかもしれない。

 ちょっとひどくないか兄弟。親しき中にも礼儀ありって言うじゃないか。繭を固く閉ざしていたのはエリオットだけど、せめてまずは紳士的にノックするとか、やり方ってものがあるだろう。いきなりフルスイングでかち割ろうとするなよ。バッシュはバットかなにかか。

「弟がプロポーズまでした初恋の相手だってことは、さすがに知らないんだろうな」

 つーか、それまで知られてたら二度とラスの顔見れねー。

 だって、もし知っていて送り込んできたならサイラスはとんでもない無神経男で、エリオットは無神経男の策にハマってあっさり初恋を上書きした間抜けと言うことになる。

 そう、上書きしてしまったのだ。木漏れ日の下で本をめくっていた細い指を、柔らかそうな髪を、異国の言葉をつぶやくサクランボみたいな唇を。床に脱ぎ捨てられた服を拾い紅茶をいれる武骨な指に、礼をしても乱れない整髪料で固めた髪に、慇懃かと思えば毒を吐き、エリオットの目をグランディディエだと言った薄い唇に。

「くそっ……」

 好きだと、思ってしまった。

 長い間、思い出を美化して、ガラスの花が咲いたら何か変わるんじゃないかと、勝手に期待していた。遺伝子研究もバイオテクノロジーも断り続けたのだって、結果が出てその先になにもないことを思い知るのが怖かったからだ。

 でも、もうごまかせない。

 だって、バッシュが現れてしまった。エリオットが後生大事に抱えてきたガラスの花も箱庭の友達も必要としない、自立した男として。

 アニー。
 アレクシア・バッシュ。

 いまのあんたは、何を望むんだろう。
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