箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

文字の大きさ
上 下
43 / 334
世話焼き侍従と訳あり王子 第三章

2-3 友の忠告

しおりを挟む
 腹の上で指を組み、目を伏せていかにも「物憂げです」と言う風情のナサニエルをにらみながら、エリオットはもう一度紅茶で唇を湿らせる。
 片道二時間かけて、プレイボーイと恋バナをしにきたわけじゃないのだ。

「前置きはいいから。急ぎで話したいことがあるって呼び出したの、ニールだろ」
「そうそう」

 ナサニエルは優雅に足を組んだ。

「きみ、殿下の成婚の儀で選帝侯に指名されているよね。王室に戻るの?」
「……どこで聞いた?」

 優しい薄紫の瞳が、身を乗り出すエリオットをなだめる。

「安心して、ダーリン。これはきみが『殿下』であることを知ってるってアドバンテージのあるぼくが想像したことだから」

 おおむね、間違ってはいないと思ってるけどね。

 ナサニエルはそう言ってウィンクを寄こし、親指以外の四本を立ててエリオットに示す。

「まず、選帝侯役を初めてサイラスさまがご自分で指名するらしいと言うこと。次にヘクター卿とミシェルさまは過去に関係があったって話。それから、第二王子は近く公務に復帰する予定があるらしいって話もある。最後に、ヘインズ公爵を王宮の使者が訪ねたって言う情報」

 一つずつ指を折り、最後に握った手をぱっと開く。

「この一週間で、ぼくの耳に入って来た王室関係のうわさ。どれも当人同士に全くつながりのない人の口から出たものなんだけど……。トドメはきみが乗って来た車かな。ぼくの記憶違いでなければ、王室のお忍び用だ。しかも運転手は臨時雇いときてる。偶然かな? 立ち振る舞いはまるで王宮の侍従みたいだったよね」

 あのクソ侍従。よりによってなんて車を盗んできやがったんだ。

「……ミリーの話しは、ありえないだろ」
「ありえないだろうね。でも、『なにか』がなければうわさなんて立たないよ。その『なにか』がなんなのか、判断材料がないからいまは置いておくけどね。でも、そのほかは無視できない」

 視線で聞かれなくたって、実際のところはある程度想像できる。

 ティーカップに残った琥珀色の水面に映る自分の顔を見下ろして、エリオットは口を開いた。

「選帝侯に、ラスが下手な貴族を選ぶわけない」

 役とは言え、公の場で次期国王が冠を戴くためにひざまずくのだ。あとから妙な親密さをアピールされても困る。
 そうなると候補は身内。慣例で両親は除外されるから、前回のようにヘクター叔父か、そうでないなら弟の第二王子だ。

「このタイミングで第二王子が公務へ復帰するなら、ハイライトで注目される選帝侯は十分すぎる役回りだよ」
「それで、ヘインズ家に王宮から使者が出た、と。第二王子とヘインズ公爵が同一人物だって知らない連中には、その意味が理解できないだろうね」
「おれは断った」
「でも、きみが心変わりしてもいいように、殿下は準備を進めてる」

 第二王子に関するうわさが立っているなら、そうなんだろう。

 エリオットが本当に無理なら代役を立てるだろうが、この状況は外堀を埋められているのと何ら変わらないように思える。

「殿下って、おおむね善良だけどやっぱり王太子だよね。きみを無理やり連れ戻さないあたりは、ブラコンとの間で揺れてるのかもしれないけど」

 なんにせよ、とナサニエルは背もたれから体を起こし、あかぎれやささくれとは無縁の指先でカップを弾いた。

「マスコミも選帝侯役を取材したくて動き始めてる。気を付けた方がいいよ、可愛い小鹿」

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...