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世話焼き侍従と訳あり王子 第三章
2-3 友の忠告
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腹の上で指を組み、目を伏せていかにも「物憂げです」と言う風情のナサニエルをにらみながら、エリオットはもう一度紅茶で唇を湿らせる。
片道二時間かけて、プレイボーイと恋バナをしにきたわけじゃないのだ。
「前置きはいいから。急ぎで話したいことがあるって呼び出したの、ニールだろ」
「そうそう」
ナサニエルは優雅に足を組んだ。
「きみ、殿下の成婚の儀で選帝侯に指名されているよね。王室に戻るの?」
「……どこで聞いた?」
優しい薄紫の瞳が、身を乗り出すエリオットをなだめる。
「安心して、ダーリン。これはきみが『殿下』であることを知ってるってアドバンテージのあるぼくが想像したことだから」
おおむね、間違ってはいないと思ってるけどね。
ナサニエルはそう言ってウィンクを寄こし、親指以外の四本を立ててエリオットに示す。
「まず、選帝侯役を初めてサイラスさまがご自分で指名するらしいと言うこと。次にヘクター卿とミシェルさまは過去に関係があったって話。それから、第二王子は近く公務に復帰する予定があるらしいって話もある。最後に、ヘインズ公爵を王宮の使者が訪ねたって言う情報」
一つずつ指を折り、最後に握った手をぱっと開く。
「この一週間で、ぼくの耳に入って来た王室関係のうわさ。どれも当人同士に全くつながりのない人の口から出たものなんだけど……。トドメはきみが乗って来た車かな。ぼくの記憶違いでなければ、王室のお忍び用だ。しかも運転手は臨時雇いときてる。偶然かな? 立ち振る舞いはまるで王宮の侍従みたいだったよね」
あのクソ侍従。よりによってなんて車を盗んできやがったんだ。
「……ミリーの話しは、ありえないだろ」
「ありえないだろうね。でも、『なにか』がなければうわさなんて立たないよ。その『なにか』がなんなのか、判断材料がないからいまは置いておくけどね。でも、そのほかは無視できない」
視線で聞かれなくたって、実際のところはある程度想像できる。
ティーカップに残った琥珀色の水面に映る自分の顔を見下ろして、エリオットは口を開いた。
「選帝侯に、ラスが下手な貴族を選ぶわけない」
役とは言え、公の場で次期国王が冠を戴くためにひざまずくのだ。あとから妙な親密さをアピールされても困る。
そうなると候補は身内。慣例で両親は除外されるから、前回のようにヘクター叔父か、そうでないなら弟の第二王子だ。
「このタイミングで第二王子が公務へ復帰するなら、ハイライトで注目される選帝侯は十分すぎる役回りだよ」
「それで、ヘインズ家に王宮から使者が出た、と。第二王子とヘインズ公爵が同一人物だって知らない連中には、その意味が理解できないだろうね」
「おれは断った」
「でも、きみが心変わりしてもいいように、殿下は準備を進めてる」
第二王子に関するうわさが立っているなら、そうなんだろう。
エリオットが本当に無理なら代役を立てるだろうが、この状況は外堀を埋められているのと何ら変わらないように思える。
「殿下って、おおむね善良だけどやっぱり王太子だよね。きみを無理やり連れ戻さないあたりは、ブラコンとの間で揺れてるのかもしれないけど」
なんにせよ、とナサニエルは背もたれから体を起こし、あかぎれやささくれとは無縁の指先でカップを弾いた。
「マスコミも選帝侯役を取材したくて動き始めてる。気を付けた方がいいよ、可愛い小鹿」
片道二時間かけて、プレイボーイと恋バナをしにきたわけじゃないのだ。
「前置きはいいから。急ぎで話したいことがあるって呼び出したの、ニールだろ」
「そうそう」
ナサニエルは優雅に足を組んだ。
「きみ、殿下の成婚の儀で選帝侯に指名されているよね。王室に戻るの?」
「……どこで聞いた?」
優しい薄紫の瞳が、身を乗り出すエリオットをなだめる。
「安心して、ダーリン。これはきみが『殿下』であることを知ってるってアドバンテージのあるぼくが想像したことだから」
おおむね、間違ってはいないと思ってるけどね。
ナサニエルはそう言ってウィンクを寄こし、親指以外の四本を立ててエリオットに示す。
「まず、選帝侯役を初めてサイラスさまがご自分で指名するらしいと言うこと。次にヘクター卿とミシェルさまは過去に関係があったって話。それから、第二王子は近く公務に復帰する予定があるらしいって話もある。最後に、ヘインズ公爵を王宮の使者が訪ねたって言う情報」
一つずつ指を折り、最後に握った手をぱっと開く。
「この一週間で、ぼくの耳に入って来た王室関係のうわさ。どれも当人同士に全くつながりのない人の口から出たものなんだけど……。トドメはきみが乗って来た車かな。ぼくの記憶違いでなければ、王室のお忍び用だ。しかも運転手は臨時雇いときてる。偶然かな? 立ち振る舞いはまるで王宮の侍従みたいだったよね」
あのクソ侍従。よりによってなんて車を盗んできやがったんだ。
「……ミリーの話しは、ありえないだろ」
「ありえないだろうね。でも、『なにか』がなければうわさなんて立たないよ。その『なにか』がなんなのか、判断材料がないからいまは置いておくけどね。でも、そのほかは無視できない」
視線で聞かれなくたって、実際のところはある程度想像できる。
ティーカップに残った琥珀色の水面に映る自分の顔を見下ろして、エリオットは口を開いた。
「選帝侯に、ラスが下手な貴族を選ぶわけない」
役とは言え、公の場で次期国王が冠を戴くためにひざまずくのだ。あとから妙な親密さをアピールされても困る。
そうなると候補は身内。慣例で両親は除外されるから、前回のようにヘクター叔父か、そうでないなら弟の第二王子だ。
「このタイミングで第二王子が公務へ復帰するなら、ハイライトで注目される選帝侯は十分すぎる役回りだよ」
「それで、ヘインズ家に王宮から使者が出た、と。第二王子とヘインズ公爵が同一人物だって知らない連中には、その意味が理解できないだろうね」
「おれは断った」
「でも、きみが心変わりしてもいいように、殿下は準備を進めてる」
第二王子に関するうわさが立っているなら、そうなんだろう。
エリオットが本当に無理なら代役を立てるだろうが、この状況は外堀を埋められているのと何ら変わらないように思える。
「殿下って、おおむね善良だけどやっぱり王太子だよね。きみを無理やり連れ戻さないあたりは、ブラコンとの間で揺れてるのかもしれないけど」
なんにせよ、とナサニエルは背もたれから体を起こし、あかぎれやささくれとは無縁の指先でカップを弾いた。
「マスコミも選帝侯役を取材したくて動き始めてる。気を付けた方がいいよ、可愛い小鹿」
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