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世話焼き侍従と訳あり王子 第三章
2-2 ニール
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フォスター家の末っ子は、享楽的なサロンを持つことで有名だ。
歳はエリオットと同じ二十三。数人の使用人と暮らしている小さなカントリー・ハウスには、数多くの「友人」が昼夜問わず訪れる。経済界の大物から貴族の未亡人、近所の農園に泊まり込むワーキングホリデー中の青年に至るまで、その人脈は驚くほど広かった。バッシュをはじめ社交界でそのサロンが眉をひそめられるのは、ナサニエルの友好にいわゆる「ステディな関係でない」セックスも含まれることが知られているからだ。
チャーミングで資産を持つ反面、奔放で好みと見るやベッドに誘う節操無し。それがナサニエル・フォスターと言う青年に対する貴族たちの共通した認識だ。だからバッシュは行先を聞いて驚いたし、初対面で「ハンサム」などと呼びかける神経を疑った。
あのまま放っておいたら、フラットに強制送還だったかもな。
首根っこを掴まれて車に押し込められることはないとしても、伯爵家が所有する屋敷の玄関先で不適切な悶着を起こした可能性は十分にある。侍従と言う外面をなにより誇りにしているバッシュにしては感情的だった。
もしかして、心配してくれたのだろうか。トラウマを持つエリオットに、性的な色香を感じさせるナサニエルが悪影響を与えるかもしれないと。
どうかな。単に軽いキャラが苦手なのかもしれないし。
いずれにしても、あのバッシュに個人的な悪感情を持たせるナサニエルはすごい。
ちなみにこれは褒めてる。
テーブルで向かい合って座ると、ナサニエルは手ずから紅茶を注いでくれた。
「シュナイゼルのオリジナルブレンド。きみのお気に入りだよね、スミレちゃん」
湯気に隠れるほのかなスミレ。上手に抽出しないと出ない香りがオリジナルブレンドの特徴で、この紅茶ばかり飲んでいるエリオットを揶揄している。
天気のいい日中なので、通されたサンルームは可動式のガラス戸が開け放たれていた。風がよく抜けてテラスのようだ。
「ニール、親愛の表現はうれしいけど程々にしてほしい。話が通じない堅物もいるんだから」
エリオットは顔をしかめて見せながら、スプーンでかき混ぜで冷ましたお茶を飲む。自分がいれるよりは断然おいしいけれど、最近は舌が肥えてしまった。
氷もないし。
色鮮やかなジアンのプレートに並んだ焼き菓子をつまんで、ナサニエルは含み笑いをする。
「あのハンサムのこと? 彼はどちらかと言えばリベラルじゃないかって、ぼくの勘は言ってるよ」
まぁ、あいつはビジネス紳士だから。
本当に保守的だったら、侍従の立場で公爵の私生活にまで立ち入ってくるはずがない。
艶のあるカヌレをひとつ口に運び、蝶たちを惹きつけてやまない花のような友人に予告した。
「ニールはさ、だれか一人って恋人ができたときに絶対苦労すると思う。その気がないのに勘違いさせるようなことするから」
「え、もしかして彼、きみの恋人なの? そう言うことは早く教えてくれなくちゃ。ハニー、誤解させちゃったなら謝るよ」
「違う!」
思い切りテーブルを叩く。
なんだ違うの、とナサニエル。体を背もたれに預け、つま先に引っ掛けたシボ革のローファーをぷらぷら揺らした。
「凍ってしまったきみの心を温める存在が、ついに現れたのかと思ったのにな」
人を冷血人間みたいに言うな。
歳はエリオットと同じ二十三。数人の使用人と暮らしている小さなカントリー・ハウスには、数多くの「友人」が昼夜問わず訪れる。経済界の大物から貴族の未亡人、近所の農園に泊まり込むワーキングホリデー中の青年に至るまで、その人脈は驚くほど広かった。バッシュをはじめ社交界でそのサロンが眉をひそめられるのは、ナサニエルの友好にいわゆる「ステディな関係でない」セックスも含まれることが知られているからだ。
チャーミングで資産を持つ反面、奔放で好みと見るやベッドに誘う節操無し。それがナサニエル・フォスターと言う青年に対する貴族たちの共通した認識だ。だからバッシュは行先を聞いて驚いたし、初対面で「ハンサム」などと呼びかける神経を疑った。
あのまま放っておいたら、フラットに強制送還だったかもな。
首根っこを掴まれて車に押し込められることはないとしても、伯爵家が所有する屋敷の玄関先で不適切な悶着を起こした可能性は十分にある。侍従と言う外面をなにより誇りにしているバッシュにしては感情的だった。
もしかして、心配してくれたのだろうか。トラウマを持つエリオットに、性的な色香を感じさせるナサニエルが悪影響を与えるかもしれないと。
どうかな。単に軽いキャラが苦手なのかもしれないし。
いずれにしても、あのバッシュに個人的な悪感情を持たせるナサニエルはすごい。
ちなみにこれは褒めてる。
テーブルで向かい合って座ると、ナサニエルは手ずから紅茶を注いでくれた。
「シュナイゼルのオリジナルブレンド。きみのお気に入りだよね、スミレちゃん」
湯気に隠れるほのかなスミレ。上手に抽出しないと出ない香りがオリジナルブレンドの特徴で、この紅茶ばかり飲んでいるエリオットを揶揄している。
天気のいい日中なので、通されたサンルームは可動式のガラス戸が開け放たれていた。風がよく抜けてテラスのようだ。
「ニール、親愛の表現はうれしいけど程々にしてほしい。話が通じない堅物もいるんだから」
エリオットは顔をしかめて見せながら、スプーンでかき混ぜで冷ましたお茶を飲む。自分がいれるよりは断然おいしいけれど、最近は舌が肥えてしまった。
氷もないし。
色鮮やかなジアンのプレートに並んだ焼き菓子をつまんで、ナサニエルは含み笑いをする。
「あのハンサムのこと? 彼はどちらかと言えばリベラルじゃないかって、ぼくの勘は言ってるよ」
まぁ、あいつはビジネス紳士だから。
本当に保守的だったら、侍従の立場で公爵の私生活にまで立ち入ってくるはずがない。
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「え、もしかして彼、きみの恋人なの? そう言うことは早く教えてくれなくちゃ。ハニー、誤解させちゃったなら謝るよ」
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人を冷血人間みたいに言うな。
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