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世話焼き侍従と訳あり王子 第三章
1-8 酔ってるやつはみんなそう言う
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「あんたは、スポーツ少年だったのか?」
悩みごとは走って解消すると言っていたくらいだ。子どものころから、ボールがお友達と言うタイプだろうと思ってエリオットが聞くと、しかしバッシュは苦笑して肩を上げる。
「ご期待に沿えず申し訳ありませんが、あいにく子どものころは文学少年でした」
「うそつけ」
「本当はフットボールのチームに入りたかったのですが、父が転勤の多い仕事で。かと言ってひとりでボールを蹴っていてもつまらないでしょう? すねて本ばかり読んでいる子どもでした」
「じゃあ、その図体はどこでこさえて来たんだよ」
「フットマンの内定をいただいてからです。この仕事は体力勝負だと言われて鍛え始めましたが、初めはついていくので精一杯でしたね」
不規則なシフトで一日中動き回り、かと思えば主人の声がかかるのを立ったままひたすら待っている。国民あこがれの王宮に勤めるフットマンや侍従たちは、実のところかなりのハードワークだ。
「一試合フル出場するのと、どっちがきついんだろうな。おれどっちも無理」
「……ヘインズさま、もしかして酔っていらっしゃいますか?」
「そんなわけないだろ。グラス一杯でどうやって酔うんだよ」
「ずいぶんと口が軽くなっておいでですよ」
「はぁ? てか、そのバカ丁寧なしゃべりかたやめろ、むかつく」
サイダーの残りを一気にあおってグラスを置くと、「なるほど、こうなるのか」と意味不明なことをつぶやいたバッシュが、自分の分も飲み干して立ち上がる。
「本日は早めにお休みください。シャワーは短めに。間違っても、バスタブに浸かろうとなさらないようにお願いいたします」
「だから酔ってねーって」
「では、お一人でバスルームまで行けますね?」
「当たり前だ、バカにしてるだろ!」
これ見よがしにリビングの扉を開けれられ、エリオットは肘掛け椅子から飛び降りる。
憤然とランドリーで服を脱ぎ散らかし――どうせあいつが片付ける――シャワーのコックをひねると、すりガラスの向こうからそのバッシュの声がした。
「着替えとタオルを置いておきます。――シャワーで溺死するなよ」
「しねーから!」
頭と体を洗ったところであくびが出た。間違ってもバッシュに言われたからではなく、エリオットはいつもより早くバスルームを出る。洗剤の匂いのするTシャツとスウェットを身に着けてリビングへ戻ると、小さな子どもにでも教えるように「水です」とコップをテーブルに置かれた。
「アルコールはいつぶりですか?」
「さぁ。ヘインズの屋敷でホットワイン飲んだのが最後かな」
「つまり数年ぶりですか」
「たぶん……ふぁ」
駄目だ、どうにも眠い。
「お疲れのご様子ですね。お休みください」
「ん……」
安定剤でも飲んだように足元がふわふわした。おかしいな、きょうはそんなに大変な作業もしてないのに。うまく回らない頭で「おやすみ」を言い、エリオットはホテル並みに整えられた寝室のベッドに潜り込む。そして、バッシュがいつ帰ったのか分からないくらい、前後不覚で眠りについた。
とてもいい気分だったのはそこまで。翌朝あり得ないほどの頭痛で目を覚ましたエリオットは、そら見たことかと呆れ顔で介抱するバッシュに散々毒づいたあと、ようやく酔っていたらしいと認めることになった。
悩みごとは走って解消すると言っていたくらいだ。子どものころから、ボールがお友達と言うタイプだろうと思ってエリオットが聞くと、しかしバッシュは苦笑して肩を上げる。
「ご期待に沿えず申し訳ありませんが、あいにく子どものころは文学少年でした」
「うそつけ」
「本当はフットボールのチームに入りたかったのですが、父が転勤の多い仕事で。かと言ってひとりでボールを蹴っていてもつまらないでしょう? すねて本ばかり読んでいる子どもでした」
「じゃあ、その図体はどこでこさえて来たんだよ」
「フットマンの内定をいただいてからです。この仕事は体力勝負だと言われて鍛え始めましたが、初めはついていくので精一杯でしたね」
不規則なシフトで一日中動き回り、かと思えば主人の声がかかるのを立ったままひたすら待っている。国民あこがれの王宮に勤めるフットマンや侍従たちは、実のところかなりのハードワークだ。
「一試合フル出場するのと、どっちがきついんだろうな。おれどっちも無理」
「……ヘインズさま、もしかして酔っていらっしゃいますか?」
「そんなわけないだろ。グラス一杯でどうやって酔うんだよ」
「ずいぶんと口が軽くなっておいでですよ」
「はぁ? てか、そのバカ丁寧なしゃべりかたやめろ、むかつく」
サイダーの残りを一気にあおってグラスを置くと、「なるほど、こうなるのか」と意味不明なことをつぶやいたバッシュが、自分の分も飲み干して立ち上がる。
「本日は早めにお休みください。シャワーは短めに。間違っても、バスタブに浸かろうとなさらないようにお願いいたします」
「だから酔ってねーって」
「では、お一人でバスルームまで行けますね?」
「当たり前だ、バカにしてるだろ!」
これ見よがしにリビングの扉を開けれられ、エリオットは肘掛け椅子から飛び降りる。
憤然とランドリーで服を脱ぎ散らかし――どうせあいつが片付ける――シャワーのコックをひねると、すりガラスの向こうからそのバッシュの声がした。
「着替えとタオルを置いておきます。――シャワーで溺死するなよ」
「しねーから!」
頭と体を洗ったところであくびが出た。間違ってもバッシュに言われたからではなく、エリオットはいつもより早くバスルームを出る。洗剤の匂いのするTシャツとスウェットを身に着けてリビングへ戻ると、小さな子どもにでも教えるように「水です」とコップをテーブルに置かれた。
「アルコールはいつぶりですか?」
「さぁ。ヘインズの屋敷でホットワイン飲んだのが最後かな」
「つまり数年ぶりですか」
「たぶん……ふぁ」
駄目だ、どうにも眠い。
「お疲れのご様子ですね。お休みください」
「ん……」
安定剤でも飲んだように足元がふわふわした。おかしいな、きょうはそんなに大変な作業もしてないのに。うまく回らない頭で「おやすみ」を言い、エリオットはホテル並みに整えられた寝室のベッドに潜り込む。そして、バッシュがいつ帰ったのか分からないくらい、前後不覚で眠りについた。
とてもいい気分だったのはそこまで。翌朝あり得ないほどの頭痛で目を覚ましたエリオットは、そら見たことかと呆れ顔で介抱するバッシュに散々毒づいたあと、ようやく酔っていたらしいと認めることになった。
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