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世話焼き侍従と訳あり王子 第三章

1-4 妄想じゃないぞ

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 エリオットは一通り資料を流し見ると、数ページ戻って会場入りの時間が近い二人の名前を指さした。

「ここ、変えた方がいい」
「序列と年齢的にも、この位置が妥当と思われますが、なぜでしょうか」
「単純に仲が悪いんだよ、この二人。子爵って言う面倒なプライド持ちやすい身分で年も近いから、張り合ってるって聞いた。先月、また何かくだらないことでやりあったらしいから、しばらく離しておくのが正解」
「お詳しいですね」
「おれにだって、情報を流してくれる友達の一人くらいいる」
「それはイマジナリーと言うやつではなく?」
「三次元だよ!」

 エリオットが社交界に顔を出さなくても許されるのは、ヘインズ家が貴族の中でも高い地位にあるから。しかしそれは、何も知らなくていいと言うことにはならない。下位の貴族たちが何を話し、どの事業に投資し、だれと関係を結んでいるか。把握して統率しなければあっと言う間に没落する。国民の長は王だが、貴族連中の手綱は同じ貴族が握っているのだ。

 ミシェルの件では情報収集をサボりすぎた自覚があるから、エリオットはここしばらくニュースを見る時間を増やした。

「しかしそうなると……」

 マーカーを付けた二人を、どこへスイッチするか。バッシュが難しい顔をした。

 どうやらスケジュールはほぼ出来上がっていて、こちらに入れるとそちらが詰まる、と言う状況らしい。エリオットが見ても、適切な交換先が見当たらなかった。

「ちょっと待ってろ」

 エリオットはリビングへ行くと、キャビネットの引き出しを開けた。請求書にまみれて、スマートフォンが転がり出てくる。
 電源を入れ、履歴からある番号を拾い上げてタップした。

『――やあ、きみから電話なんて、明日は雪が降るのかな』
「くもりのち晴れ。降水確率十パーセントだ。教えてほしいんだけど……」

 エリオットはいくつか質問し、それに対する返答を受け取った。わずかなタイムラグもない、相変わらず打てば響くような明確さだ。

「ありがとう。助かった」
『どういたしまして。じゃあ、予定を連絡してね。待っているよ』

 最後には余計な約束を取り付けられたが、おおむね求めるものは得られたのでよしとする。
 スマートフォンをテーブルに置いてキッチンへ戻ると、バッシュが軽く会釈した。

「お手数をおかけいたしました」
「余計な口出しだけど」
「己だけの力で不十分な結果を出すより、適切な助けを得て完ぺきに仕上げる方が重要だと考えます。その助けを得られる人脈を持つか否かも、評価基準でしょうから」
「おれはなかなかのツテだろ」
「これで、殿下に謁見していただければ言うことなしでございます」
「それとこれとは別」

 エリオットは即答して、友人から得た知恵でパズルを組み直すべくタブレットをのぞき込んだ。

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