25 / 332
世話焼き侍従と訳あり王子 第二章
3-3 きっかけはプロポーズ
しおりを挟む
ところが実際に庭を見たバッシュの反応は、予想を超えて顕著なものだった。
ビオラとパンジーの苗を抱えるエリオットについて初めて屋上へのぼったバッシュは、ポーチュラカの苗が詰め込まれたポット用のトレーを抱えたまま、かすかに息をのんでその場に立ち尽くした。
「こっち」
先を行くエリオットについて歩く間も、きょろきょろと遊歩道の左右を眺めている。庭園のほとんどを占めるのは、植物の高さを利用して立体感を出すボーダーガーデン。奥から通年のコニファー、数日かけてコンテナから移植したデルフィニウム、ラベンダーやラナンキュラスが植わっていて、手前の三分の一ほどは土がむき出しのままになっている。今回届いた苗は、そこを埋める背の低い花たちだ。
「バラもあるんですね」
五メートルほどのアーチに絡むつるバラに鼻を寄せて、「青リンゴの香りですか?」と尋ねてくる。
「正解。ニュードーンって種類。初心者向けの品種だから、わさわさ茂ってるのはおれの腕がいいとかではないけど」
「簡単に茂ると言うことは、こまめに手入れをしなければ美しい形を保てないのでは?」
分かってるじゃないか。
耐寒性、耐暑性に優れる強健品種なだけあって、油断するとどんどん伸びて手が付けられなくなる。それでも、数日で散ってしまう花びらがトンネルに敷きつめられる光景がきれいだろうと思ったから、この品種を選んだ。おかげで誘引と剪定が忙しない。
バッシュは素直に感心しながらバラのトンネルを抜け、その先に鎮座する石造りのガゼボに目を剥いた。
「これはまた……どのように運んだんです?」
「ヘリでパーツ運んで組み立てた」
なにせヘインズ家の資産は使いたい放題なので。
酔狂と言われようが、エリオットの王国にはあのガゼボが絶対に必要だったから。
「こっちのハウスは苗を育てるのと、倉庫代わり。あっちの小屋で花の改良をしてる」
「品種改良を?」
「ああ」
とある花の改良を始めたきっかけは、アニーだった。
箱庭で一緒にすごし、どんくさくても言葉につっかえてもバカにして笑ったりしないアニーに夢中になっていたエリオットは、毎日せっせと花を摘んではプレゼントした。そしてある日、思い切って告白したのだ。
『アニーの一番好きな花をあげるから、結婚してください』
ませてるよな。ガキがなに言ってるんだって、うしろからどついてやりたいね。
幼児のおままごとみたいなプロポーズに、アニーはしばらく考えてこう言った。
『ロシアにいたときに見た、ガラスの花がほしいな』
うん、じつにロマンチックな返答。つまりノーってことだ。ガラスの花なんてあるわけがない。しかもロシア? コサック帽をかぶって探しに行けと?
しかし悲しきかな、世間知らずのエリオットはアニーの言葉を信じ、絶対にその花をあげると約束した。
ビオラとパンジーの苗を抱えるエリオットについて初めて屋上へのぼったバッシュは、ポーチュラカの苗が詰め込まれたポット用のトレーを抱えたまま、かすかに息をのんでその場に立ち尽くした。
「こっち」
先を行くエリオットについて歩く間も、きょろきょろと遊歩道の左右を眺めている。庭園のほとんどを占めるのは、植物の高さを利用して立体感を出すボーダーガーデン。奥から通年のコニファー、数日かけてコンテナから移植したデルフィニウム、ラベンダーやラナンキュラスが植わっていて、手前の三分の一ほどは土がむき出しのままになっている。今回届いた苗は、そこを埋める背の低い花たちだ。
「バラもあるんですね」
五メートルほどのアーチに絡むつるバラに鼻を寄せて、「青リンゴの香りですか?」と尋ねてくる。
「正解。ニュードーンって種類。初心者向けの品種だから、わさわさ茂ってるのはおれの腕がいいとかではないけど」
「簡単に茂ると言うことは、こまめに手入れをしなければ美しい形を保てないのでは?」
分かってるじゃないか。
耐寒性、耐暑性に優れる強健品種なだけあって、油断するとどんどん伸びて手が付けられなくなる。それでも、数日で散ってしまう花びらがトンネルに敷きつめられる光景がきれいだろうと思ったから、この品種を選んだ。おかげで誘引と剪定が忙しない。
バッシュは素直に感心しながらバラのトンネルを抜け、その先に鎮座する石造りのガゼボに目を剥いた。
「これはまた……どのように運んだんです?」
「ヘリでパーツ運んで組み立てた」
なにせヘインズ家の資産は使いたい放題なので。
酔狂と言われようが、エリオットの王国にはあのガゼボが絶対に必要だったから。
「こっちのハウスは苗を育てるのと、倉庫代わり。あっちの小屋で花の改良をしてる」
「品種改良を?」
「ああ」
とある花の改良を始めたきっかけは、アニーだった。
箱庭で一緒にすごし、どんくさくても言葉につっかえてもバカにして笑ったりしないアニーに夢中になっていたエリオットは、毎日せっせと花を摘んではプレゼントした。そしてある日、思い切って告白したのだ。
『アニーの一番好きな花をあげるから、結婚してください』
ませてるよな。ガキがなに言ってるんだって、うしろからどついてやりたいね。
幼児のおままごとみたいなプロポーズに、アニーはしばらく考えてこう言った。
『ロシアにいたときに見た、ガラスの花がほしいな』
うん、じつにロマンチックな返答。つまりノーってことだ。ガラスの花なんてあるわけがない。しかもロシア? コサック帽をかぶって探しに行けと?
しかし悲しきかな、世間知らずのエリオットはアニーの言葉を信じ、絶対にその花をあげると約束した。
27
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
俺と親父とお仕置きと
ぶんぶんごま
BL
親父×息子のアホエロコメディ
天然な父親と苦労性の息子(特殊な趣味あり)
悪いことをすると高校生になってまで親父に尻を叩かれお仕置きされる
そして尻を叩かれお仕置きされてる俺は情けないことにそれで感じてしまうのだ…
親父に尻を叩かれて俺がドMだって知るなんて…そんなの知りたくなかった…!!
親父のバカーーーー!!!!
他サイトにも掲載しています
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる