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世話焼き侍従と訳あり王子 第二章

3-1 時間を考えてください

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 五月も半ばに差し掛かったころ。

 エリオットはいらいらとフラットの中を歩き回っていた。

 何度も耳障りなベルが鳴っているのだ。存在を忘れていたのに、バッテリーが生きていたらしいスマートフォン。どこに放置したかすら覚えていないため、早朝から三分おきに鳴らし続ける非常識な相手を怒鳴りつけるにしても、まずはあの四角い板を探し出さなければならない。

 ようやく居間の暖炉脇、いつもクレジットカードの請求書を放り込んでおくキャビネットからスマートフォンを発見し、ディスプレイに表示された名前を見て、エリオットはため息をついた。

 さては、また研究室に泊まり込んで時間の感覚なくなってるな。

「はい、ヘインズ……」
「おはようございます」

 しつこくなり続ける電話に応答したのと、相変わらず足音を立てないバッシュがリビングに現れたのは同時だった。
 エリオットがスマートフォンで話しているのを初めて見たからか、ひどく驚いた顔に向かって手を振ると、すぐに一礼して玄関を出ていく。

「……ヘインズです」
『やあエリオット! 元気にしているかね?』
「おはようございます、ゴードン教授。そちらこそお元気そうで」

 朝っぱらからこのテンション。まだしばらくは、くたばりそうにないな。

『進捗が気になってね。君の花、様子はどうだい?』
「気にしてくださってありがとうございます。教授のおっしゃる通り、数日中に一番早いものが開花します。あまり期待はできませんが」
『咲いてみないと分からないじゃないか』

 快活な声の主は、首都にある大学で教鞭をとる植物学者。学生からは熊とあだ名される恰幅のよさとワイルドなひげを持ちながら、ちまちまと顕微鏡をのぞいている姿が笑いを誘うらしい。エリオットは大学に在籍したことはないけれど、庭園の小屋で育てている花について、個人的に教えを受けている。

「気温に適応したあたりで、交雑での改良は限界ではないかと思っています」
『そうか』

 残念そうに相槌を打つ声を聴きながら、冷蔵庫を開けて水のボトルを取り出すと、グラスに半分ほど注いだ。

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