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世話焼き侍従と訳あり王子 第二章

2-4 ベーグルサンド

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 バッシュが先導しドアを開けたリビングに立って、エリオットは「お気遣い」がまんざらでもなかったことを知った。

 じゅうたんやラグが剥ぎ取られ、まだらに日焼けした床は経年以外の汚れを拭き取られて、板と板の間に詰まった砂埃まで掻き出されている。いかんせん建材が古いので顔が映るほど、とはいかないまでも、磨き上げられた光沢のおかげで室内が明るく感じる。靴下を脱いで、裸足で木の感触を確かめてみたい。

「ラグなどは、専門の業者へ依頼してクリーニングいたします」
「ん」

 ダイニングキッチンを覗くと、こちらもフロアマットに散っていたシミが拭い去られている。

 あ、前にラザニアひっくり返してベタベタになってたところ、あの油汚れがよく落ちたな。

 テーブルには希望通りベーグルサンドが用意されていて、室内にワックスのつんとした匂いが残っていることを除けば、素晴らしい仕事だった。

「……あんた、自分の昼食はどうするんだ」

 バッシュを振り返る。

「この後、お時間をいただければ外で済ませてまいります」
「いま適当に作って、ここで食べれば」

 椅子を引くエリオットに、ひょいと片眉を上げたバッシュが真意を問うような目を向けた。

「別に強制じゃないから、食事くらい一人でしたかったらそう言えよ」
「いえ、ありがたいご提案です。実を申しますと、五階まで往復するのは少々……」
「少々?」
「面倒くさいと思っておりました」

 正直でけっこう。

 鼻で笑うエリオットの前に水のグラスと紅茶を並べると、バッシュは冷蔵庫から余ったハムやクリームチーズを取り出す。残っていた材料の量を見るに、スーパーで売られている規格は一人分を作るには向いていないものらしい。

 エリオットにとって、子どものときの料理は一人分が皿に乗って運ばれてくるものだったし、ここでは一人分に調理された冷凍食品ばかりなので、市販のものを人数に合わせて調理すると言う過程はなかなか興味深かった。さほど時間をかけず、エリオットのものと同じ具材をそれよりも雑に挟んだサンドができあがる。

 バーガーショップのスタンド席みたいに、大きな口でベーグルサンドにかぶりつくバッシュは、小さなフラットのキッチンによく似合っていた。王宮の侍従としては不適格かもしれないが、エリオットは主人ではないから別に構いやしない。

 エリオットもかぱっと口を開き、もっちり弾力のあるベーグルと、相性抜群のハムとチーズのサンドを堪能した。
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