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世話焼き侍従と訳あり王子 第二章

2-3 生活指導

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「ヘインズさま、そちらでしばしお待ちください」

 玄関を開けるなり一回りも大きな体に進路を遮られ、びくりと肩が跳ねた。

 バッシュは硬直したエリオットを残してバスルームの正面にある寝室へ入ると、そこから持ってきたルームシューズを足元へ置く。

「こちらにお召し替えを。スニーカーは土を落としてまいります」
「……いいよ別に。どうせすぐまた汚れる」
「でしたら、せめて玄関でルームシューズにお召し替えいただけますか。寝室にまで汚れを持ち込むのは衛生的にもよくありません」

 あんたの存在が精神衛生上よくないんだよ。無駄にデカい図体しやがって。

 グレーのルームシューズを睨んでいると、靴を脱ぐのを待っているバッシュの視線を頭のてっぺんに感じた。

 ツンドラみたいに冷たそうな目をしてるくせに、自分の発言が臨時のハウスキーパーとして踏み込みすぎていやしないかと推し量っているんだろう。

 余計なことをするなと無視すれば終わる話だ。目の前の男の夢や希望や出世欲が詰まった、ご立派な胸板を押しのける。しかし、それだけのことができない。腕力やウエイトの問題ではない。エリオットにとって、他人に触れることは恐怖だ。だから多くの使用人を抱えるヘインズ家の屋敷を出て、フラットで一人暮らしをしている。ここにいれば、うっかり廊下の角でメイドにぶつかったりする心配もなく生活できた。けれどいま、だれも踏み込んでこないはずの場所に、異物であるバッシュが迷いなく立っている。

 踏み込みすぎとかいまさらだろ。そんなもの、ファーストコンタクトから三日で勝手に部屋に上がり込んで食事作って掃除してる時点で、踏み込むどころかこっちの地雷を踏み抜いてんだよ。あんた侍従だろ自重しろ。

「ヘインズさま?」
「邪魔」

 あごで下がれと示しバッシュが二歩後退すると、喉が詰まるような圧迫感が薄れて呼吸がしやすくなる。息をついたのがバレないよう、うつむいたままかかとをこすり合わせて、くたびれ柔らかくなったキャンパス地のスニーカーを脱いだ。

「せっかく掃除した床を汚されたくないんだろ」
「お気遣い感謝します」

 だからお気遣ってねーよ。
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