箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第二章

1-5 似たもの同士

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 はっと目を開くと、木目調の天井が広がっていた。首を回せば、見る者のいなくなった円盤が回転を放棄したらしくテレビがメニュー画面で止まっている。暖炉の上にある置時計に表示された時間は午前一時十七分。

 いつの間にかリビングで寝落ちしていた。

「……うわぁ」

 肘掛け椅子にのけぞったまま、エリオットは顔をこする。

 あれか。

 バッシュに、さほど苦手意識を感じなかったのは、サイラスではなくアニーと似ていたからか。

 いやいや、あれは語彙が増えたから出た形容であって、アイリスの名前も知らなった幼児の純粋な心と一緒にしてはだめだろう。

「おれの思い出を汚すなよ、ゴリラめ」

 夢のかけらを忘れないように何度も少女の面影を瞼の裏に描く。

 初めてガゼボで会ったときも、彼女は本を読んでいた。たぶん児童書だったのだろうが、エリオットには読めない異国の言語で書かれたページをめくる白い指先と、産毛が生えた桃のような頬に落ちる髪を耳にかけるしぐさが、おとぎ話のワンシーンのようだった。

 絶対に、どこかの国からきたお姫さまだと思った。

 自分が王子だなんて悪い夢だと逃げてきたことも忘れるくらい、宮殿の壁に飾られた絵画のような光景に見惚れていると、視線に気づいた少女が顔をあげた。そのあまりにきらきらした目に見つめられたからびっくりして、慌てて逃げ出してしまったほどだ。でも結局、どんな宝石よりもきれいなお姫さまが見たくて翌日もそのガゼボを探しに行ったのだ。

 名前はアニー。箱庭ではみんながあだ名で呼び合ったから本名は知らない。柔らかくて甘そうな髪をした、年上の女の子。エリオットの初恋だ。

 ロシア。そう、たしか帰国子女であまり英語が得意じゃなかった。それを悪ガキどもに笑われていて、はじかれた者同士の親近感で仲良くなったのだ。今思うと、エリオットが勝手に懐いていただけのような気もするけど、邪険にしないでくれたのは家族以外でアニーだけだ。

「ラスのこと、バカにできないな」

 エリオットだって、あの箱庭の出会いをいまだに引きずっている。しかもサイラスと違い、奇跡みたいに可能性の低い願いをかなえたくて、いまだに祈りを繰り返しているから始末が悪いのだ。

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