箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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世話焼き侍従と訳あり王子 第一章

5-1 コールガールの方がマシ

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 前髪をおろし、シリコンのサンダルをがぽがぽ言わせながら階段をおりると、十八世紀にタウンハウスとして造られたなごりのエントランスに、はなはだ不釣り合いなビビット色のロッカーが鎮座している。

 これも宅配ボックスを専門に扱うリース会社のもので、エリオットだけでなくフラットの住人は自由に利用できる。置くだけなら買取でもよかったが、やはり不特定多数が使うとなるとトラブルが面倒なので、維持管理を委託していた。いくらオーナーだからと言って、だれかがうっかり引き取り忘れた中身の分からない荷物の処理なんて絶対にごめんだ。

 エリオットは指定されたボックスの鍵を開けて、一抱えもある段ボール箱を取り出す。重量はさほどでもないけど、シーズン10を超えるサスペンスドラマのBOXセットはなかなかに大きい。うまいことバランスをとって片腕で抱え、ボックスのふたを閉めた時、エントランスにだれかが入ってきた。

「ヘインズさま」
「チェンジ!」
「コールガールではございません」

 荷物を放り出しひんやりした石壁まで飛びのいたエリオットへ、バカ丁寧に「おはようございます」と頭を下げたバッシュは、角のへこんだ箱を拾い上げると、さっさと階段を上っていく。

「おい!」

 エリオットは慌てて後を追う。

 くそ、手ぶらのこっちが小走りってどういうことだ。筋肉バカめ。

 今日のバッシュは、置物としては文句のない顔を乗せた長身を三つ揃えのスーツに詰め込んでいる。いかにも「王宮から来ました」と言う燕尾服でうろつかれたらたまったものではないけど、この服装がマシかと言うと大いに謎だ。とにかく体がでかくでかさばるから、何を着ていても地味にならない。

 憎たらしいな。

「なにしに来た」
「つつがなく選帝侯の大役を終えられるまで、ヘインズさまのお世話をさせていただくこととなりましたので、あらためてご挨拶に参りました。王宮との日程調整、必要なご衣裳の手配から各種手続きの補佐まで、すべてわたしが務めます」
「はああ?」

 ミルクチョコレートみたいな色の手すりに縋り付き、エリオットは絶叫した。

「貴殿については、わたしの裁量で対応させていただく旨、上司を通じて王太子殿下にご了承を得ております。可能な限りヘインズさまをお助けするよう、お言葉を賜りました。お疑いでしたら、正式な辞令をお持ちいたします」

 いやいや待て待て。

 これは想定外だ。せいぜい侍従長が接触してくるくらいだと高をくくっていたから、あんな不遜な態度をして見せたのに。しかも直接頼まれてくるなんて、サイラスの後ろ盾がついたも同然ではないか。

「あんた、おれの意向は伝えると言っただろ!」
「侍従長へ確かにお伝えいたしました。しかし、一度のお断りを真に受けるとは侍従として失格だと叱責を受けましたので、至らなさを猛省しております。なにとぞご容赦くださいませ」

 そうじゃない!

「おれは行かないって言ってるんだから、代わりを探すとか、そっちのが現実的だろ!」
「婚姻の儀まで三ヶ月ほどございます。その間にご了承いただければ、何の問題もございません」

 息を切らせて五階までのぼり切り、ドアの前で開錠を待つバッシュに向かってエリオットは怒鳴る。

「ふざけるな! なにを勝手なことを……」
「こっちのせりふだ、クソニート」
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