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世話焼き侍従と訳あり王子 第一章

2-2 その正体は

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 ゼリー容器のキャップをひねる。白い飲み口をくわえて身を乗り出し、伸ばし放題の黒髪の間から目を細めた。通りに沿って続く建物の向こうに、白亜の宮殿――正確に言えばその屋根――が見えた。

 混沌の時代を運よく細々と生き残り、SNS全盛期となった現代もイギリスをお手本に立憲君主制をとるヨーロッパの小国、シルヴァーナの王宮だ。現国王はエドゥアルド二世で、フェリシア妃との間に王太子のサイラス・G・シルヴァーナがいる。

 そして幼いころから虚弱で公の場に出られず、現在は離宮で長期静養中とされている第二王子エリオット・W・シルヴァーナ。なにを隠そう、まぶしく輝く王宮から逃げ出した、できそこないのエリオット・ヘインズである。

「泣き虫ミリーとラスが結婚か」

 まあでも、子どものころ、毛虫が怖いだのおさげを引っ張られただのとミシェルが泣くと、一番にすっ飛んでいくのがサイラスだった。三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。

 サイラスはいつもで輪の中心にいて、大人たちになにを吹き込まれずとも、みんな彼がその場のリーダーだと分かっていた。赤毛まじりの明るい金髪、優しそうな青い目。いつもニコニコしていた理想の王子さまは、立派に成長して本物の王太子になった。そしてミシェルの手も離さないまま、ついに嫁にしてしまうとは。

「意思が強すぎて、我が兄ながら正直引くよな……」

 そんなきらきらしたおとぎ話の世界なんて、付き合っていられない。
 五年かけて作り上げた、誰にも知られることのない場所。ここにいられればエリオットは満足なのだ。祝ってほしいなら、匿名で百通くらい祝電を送ってやる。だから今まで通り自分には関わってくれなくていい。

「あんな堅苦しい手紙にあんな堅物送って来るなんて。嫌がらせじゃないのか」

 そんなはずがないと知っているのに憎まれ口しか叩けない自分も、放っておいてくれと招待状を突き返すこともできない自分も、あの場所にはふさわしくない。

 パウチを握りしめ、一気に中身を吸い込む。

 手の温度でぬるくなったゼリーが、感情の出口をふさぎながら体の奥へ落ちていった。
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