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第23話 今の自分とソレ以外。

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「プルメリア、機嫌をなおして?」

「機嫌など悪くなっておりません」

「虚無顔させるほど怒るなんて思わなかった。悪かったよ」



 申し訳なさそうに眉を下げた顔したってダメですから。

 超絶美形だからって何でも許されると思わないで下さい。



「虚無顔ってなんですか。そんな顔してません」

 ツンと顎をあげて言い返す。



「もう笑わないよ……とは、言えなくもないような、約束出来る……破りそうだけど」

「どっちなんですか! もういいです。クリスティアン様がお話したかった本題に戻りましょう」



 あー、うー、とクリスティアン様はもだもだしていたが、私の顔を見てため息を吐くと話すことにしたようだった。



「プルメリア、次の休みに一緒に出掛けないか?」

「何か参加しなければいけないお茶会とかですか?」

「いや、プルメリアと一緒に出掛けたいだけだよ。二人で」

「……二人で?」

「そう。二人で」



 お義母様に苦言でも言われたのかな?

 婚約は結んだものの交流らしい交流はしてない。

 キスとか……は、しましたけども。

 お互いについて知っていることは家名と、このような人らしいという人づてでの評価しかまだ知らないように思う。

 クリスティアン様については人づての評価がほぼ当てはまるような(傾国の美貌で女性遍歴豊か)振る舞いで「人の評価は当てにならないと思ってたけど納得」とは思った。

 では中身は? というと、うーん……強引で自分に自信がある方? といった曖昧な感じ。



 私としては一生モテるだろう夫を持つ事に不安も不満もある。

 お断りの選択肢は無かったので今更ではあるけれど、女性関係で一生安心出来ないのってかなりストレスではないだろうか。



 そこにクリスティアン様目当ての令嬢や夫人たちの妬み嫉みが加わって嫌な思いもさせられるんでしょう? その見返りに豪勢な暮らし……。

 それに全く魅力を感じないと言われたらそうではないけれど、私より有力候補が現れてこの婚約がどうにかならないのかなっていうのは未だに思っているところである。



 好きなこと(畑仕事)もさせて貰えるなら、私の中にも妥協の余地が出来て納得出来るのかな……。

 仕事とはいえ夫が他の異性とイチャイチャしてるの静観させられるんでしょう?

 それが一生続くかはわからないけれど、その仕事を後継に引き継ぐまではあるかもしれない。

 そう考えると豪奢な暮らしも美しい夫も大きな権力も魅力を感じないのよね。



 私が悩んだところで、この婚約をどうにか出来る権力も発言力もないわけですけども。

 そんなモヤリとしたところにお義母様は気付いていて交流を持つようにクリスティアン様に助言してくれたのかもしれない。



 プルメリアが答えなんて出ない考え事に耽っているその顔をクリスティアンはジッと観察している。



「どうかな? 行くよね? 婚約者同士でお出掛けは普通のことだよ。凄い悩んでるようだけど」

「そうですね、お出掛けしましょう(行く行かないで悩んでないけど)」

「よし、決まり。日程は後日ライアンから知らせるようにするから楽しみにしておいて」

「分かりました」



 クリスティアンはプルメリアに素っ気ない態度や返事をされても微笑みを浮かべる。

 将来担う役割の為、幼い頃から人の機微をつぶさに観察して生きてきたクリスティアン。

 相手の考えを読み解くことに長けたクリスティアンには、プルメリアは見開きされたまま中身を晒す本のようで読み易すぎる。

 葛藤も何もかもここまで曝け出されているとは気付くことはないだろう。

 そんな分かり易い為人は、社交を担う公爵夫人としては失格だ。

 しかし、そういう拙いところがクリスティアンにとっては堪らない魅力に映るのだ。

 淑女教育をされておらず全て感情を表に出してしまう平民のようだという訳ではなく、ただ好ましい人柄として映っていた。





「ああ、それともうひとつ」

「はい」



 お茶と供に出されていた焼き菓子のどれを食べようか悩んでいたプルメリアは、クリスティアンの言葉に視線を上げてクリスティアンを見る。



「屋敷の使用人は全て紹介済みだけれど、私の部下の紹介がまだだったと思ってね」



 仕事モードになったのか口調が少し変わったようなクリスティアンにプルメリアは首を傾げる。



「私は公爵家のお仕事に携わることはないと思うのですが紹介されて大丈夫なのですか? 諜報とは秘匿されて動くお仕事ですよね?」

「正解。だから全員ではない。プルメリアが夜会などに参加するとき限定の護衛や補佐役を紹介するつもりだ。影から護衛する者もいるがそちらはプルメリアと婚姻するまでは紹介は出来ない。そちらに関しては婚姻後に」

「そうなのですね」

「護衛は男になるけれど、補佐役には女性を用意しているから気になることがあれば相談するといい。」

「はい」



「という訳でこの話は終わりね」

「え? はい。終わりなのですね」



 クリスティアン様は残ったお茶をぐいっと飲み干して「仕事に関連する話をプルメリアとするのって何か苦手だなあ」と苦笑された。



「苦手ですか?」

「堅苦しいでしょう? 幼い頃から用途に合わせてたくさんの自分を作ってきたから、その時に合った人間になるというか、なんというか」

「大変なお仕事ですね……」



 たくさんの自分を作るっていうことは、いろんな役をやってきたということ。

 それも幼い頃から。

 自分は自分として生きてきた私にはそれはどんな人生だったろうか想像もつかない。



「大変……なのかもね。それ以外の生き方をしてきてないからあまり分からない。でも、プルメリアと話す時はその場に合った自分を作ることが面倒というかひどく窮屈に感じるんだ。なぜだろうと思う?」

「なぜでしょう?」



 クリスティアン様のこともよくわからないのに、何故と問われてもわかるはずもない。



「この時はコレ、これならこっちっていう風にパターンに合わせて自動的に? 癖のように? そういう自分になってしまうんだ」



 コンビニバイトで接客をしてる時の自分と、プライベートの時の自分は口調すら違うみたいな感じなのだろうか。



「仕事の時とそうじゃない時が変わるのは分かります」

「そうそんな感じなのかも。でも、仕事の話をするだけの時もその時の自分になってしまうのが嫌……なのかな。今は」

「雰囲気とか口調が少し変わった気がしてました」

「職業病なのだろうけどね。一生一緒にいる奥さんになる人にだけはその他大勢と一緒のような色んな自分で接していくのではなくて、今の自分以外で接したくないなっていう……?」

「私はあまり気にしませんが」

「……そうだよね、プルメリアはまだそうだと思ってたよ」

「……?」

「あー……もう忘れて」





 その後はもうその話はクリスティアンからでることはなく、プルメリアに何処にお出掛けしたい? 何を食べてみたい? と質問攻めになったのだった。








以下、作者の補足の独り言です。
ご覧頂けなくても大丈夫です!

✂---------------------------

クリスティアンの葛藤を伝えるのが難しくちょっとぐだぐだ感が否めない話になってしまいました。

ハニートラップだけが諜報の仕事ではないので、それ以外の作られた仮面がたくさんあって、クリスティアンからすればプルメリアには本当の自分でっていうモヤモヤを伝えたかったとこでした。



プルメリアにクリスティアンに対する好意があれば、それを嬉しいと感じるだろうと思うのですが、今の所意識はしているもののそれはクリスティアン以外にも同じことをされたら同じように意識してしまう程度の気持ちしかないのでw

クリスティアンもそれを察して忘れて欲しいって感じです。

本当のクリスティアンは顔面偏差値高い人っぽい口調ではなく、あまり堅くない気易い口調の人ということでした。
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