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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

小さな手がかり。

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「中の安全を聖騎士から確認後すぐに枢機卿が中へ……それからしばらくして激しい音がしました。不測の事態だと即判断した護衛が小屋に勢いよく突入したのに合わせて私たちも続きました。狭い小屋の中で何かが燃えていました。燃えている対象に枢機卿が魔法をいくつも行使していました。水魔法や氷魔法だったかと思います。ですがいくら魔法で鎮火させようとしても対象の火が弱まることなく全てが燃え尽くされてしまいました」

 随分と昔のことではあったが、あの時の枢機卿の異様な姿だけは鮮明に覚えている。
 半狂乱とでもいうのか、言葉にならない何かを大声で叫び続けていた。
 全てが燃え尽きたあと、枢機卿はガックリとその場で膝をつきしばらく動かなかった。

「燃えたか……その対象とは何だったのか分かっているのか?」

 眉間に皺を寄せ訊いていたシュヴァリエが問いかけた。

「……何だったのでしょうか。燃えていた場所は寝台のようだったので人であったのかも――しれません。検分しようにも全て灰になってしまい……その灰は聖騎士が回収していましたが、私たちに何であったかは伝えられることはありませんでした」

「灰を回収か」

 シュヴァリエはアレスに視線を向ける。
 アレスは同意するように頷くと「他に何か覚えていることはないか、例えば……灰の他に回収していたものや、枢機卿が半狂乱で叫んでいた内容とか」と問いかける。

「言葉を発していたのか不明ですね……やめろやめてくれと叫んでいたような気がします。騒がしかったのではっきりと聴き取れていた訳ではなく、なんとなくそのように言っていたかもしれない、ですが」

「ふむ……」

 理性が抜けて半狂乱になっていたのであれば、隠していた何かを吐いてくれた可能性があったかもしれないと期待したが、それはなかったようだ。

「陛下、発言の許可を頂戴出来ますでしょうか」

 その時、ハーリス・メルローの隣で寸分の隙なく直立不動で並び立ち、あの場で共にに居た同期であるハーリスへの問答が一区切りするのを窺っていた。
 一区切りしたと判断した女性騎士ミシェン・フェートリルは挙手をし発言の許可を請う。

「発言を許可する」

 シュヴァリエがミシェンを見つめ許可を与える。
 ミシェンは己の心の底まで全てを見透すかのようなパパラチアサファイアの瞳に見つめられて、握りしめたままの手が微かに震えた。
 それは高揚か怯えなのかは判別出来ないが、何か背筋がゾクリとする。
 長年培ってきたと自負している鋼の自制心で表向きの平静を保ち、お手本のような美しい騎士の礼を取ると口を開いた。

「有難うございます。私が記憶する限り「種族」と「私のものだ」と断片ではありますが、不明瞭でありますが、恐らくそのように言っていたのではないかと。それともう一点、完全に燃え尽くされ火の消えた後に残った灰ですが、一瞬色がおかしく見えたような気がしました。ほんの一瞬のことでしたので、見間違えたのかと思ったのを覚えています。私が記憶する限りは以上です」

「一瞬の色変わり? 種族……」

 アレスは顎に手を宛て独り言のように呟いた。

「報告書にそれを記載したか?」
「はい。やり取りのすべてを記載しました」
「私もすべてを記載致しました」

 あの場に居た騎士ふたりは新人であったこともあり忖度を一切することなくそのまますべてを記載して提出したようだった。

 それを訊いたアレスが口を開く。

「おかしいですね。その日の報告書を私は事前に確認していましたが、今訊いた内容はひとつも記されていない。で、あるならば提出された報告書を改竄したものがいるということ。勿論、二人が示し合わせて偽証したのでなければ、ですがね」
「……偽りを申したのか?」

 アレスの発言にシュヴァリエの瞳に物騒な光が宿る。
 問いかけに対する回答次第では生死に関わると察せられた。

「我が真の忠誠は皇帝陛下にこの命尽きるその瞬間まで捧げております。陛下に偽りを申すなど、我が身を切り刻まれ四肢切断されようとも有り得ぬことです!」
「右に同じく。我が生涯の献身と忠誠を陛下に誓っております。」

「種族」の言葉が出たことでアレスとシュヴァリエには二人が偽りなど申していないことは分かっていた。
 ただ、少し揺さぶってみたら何か出るかもしれないと思っただけであったが―――
 騎士の真面目で実直な忠誠心を捧げられただけであった。

「偽りないのであればよい。疑って悪かった」

 シュヴァリエは二人に微笑む。
 シュヴァリエにとって戦場を共に駆けた騎士たちは、臣下でありながら仲間という意識が強い。

 絶世の美貌で微笑みかけられた二人は、先程とはまた違う生死に関わる慟哭を体感したのだった。


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