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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

無理無理、あれを公爵令嬢レベルとか。 影 side

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「シュヴァリエ様は此方にはいらっしゃらないのかしら。」
「私、帝国で三本の指に入る商会の会長の孫ですのよ。お爺様に連絡をとって頂戴。きっとご心配されていると思いますの……。」
「私の愛用している香油も無いし、化粧道具も揃ってないし、何この無臭石鹸……センスがなさすぎではありませんこと?」

「陛下は此方に来る事はありませんね。」
「なるほど。連絡は取りましたよ。「孫を頼みます。」とのお返事を頂きました。貴女がやらかさないかの心配はされているようでしたけどね。」
「香油は我慢して下さい。といいますか、貴女いま現在自分の置かれている状況わかってます? センス悪くて悪かったですね、無臭石鹸は影の者として必要なのですよ。お分かり頂けることはなさそうですが。」

 閣下に猿轡を噛まされて馬に括りつけられ、遠慮のない早駆けをされて、女性として見るに耐えぬ経験をされた平民の少女。

 涙や鼻水やら吐しゃ物やらに塗れてどえらい状態になってる時は、憔悴しきってしおらしかったのに。
 しばらくは静かだろうと思っていたが、三日目には上記の遣り取りが出来る程にまで復活していた。
 今まで蝶よ花よで甘やかされて育てられていた少女だというのに、驚異的な復活力である。

 平民というのは根っから逞しいのかもしれない。

 オレも平民に毛が生えた程度の男爵家出身だけど一応貴族だからな、三男だったからスペアにすらならずそこまで大事にされた覚えはないからアレだけど、もし何の訓練も無しに閣下にアレをやられたら一週間は引きずると思う。
 何の心構えもなく猿轡に緊縛に馬に括りつけられての容赦ない早駆けは、相当堪えると思うけど。

 この少女の教育を影総出で仕上げるつもりではいるが、一応その中でも責任者っぽいのが必要って事で、琥珀(無謀な発言を閣下にした阿保)のせいで閣下に約束した手前もあり、オレが責任者になっている。
 正直、やりたくない。
 我儘だし生意気だし、陛下の美貌と地位に頭がやられてしまったからといって、殿上人を名前呼びは有り得ない。
 平民という身分を考えたら「早急に仕上げろ」と閣下から通達されてなければ、血の気の多い影とかに首と胴体を切り離されても文句は言えないと思う。

 閣下に命を受けたあの日から数日。
 生意気な口は利かなくなった。
 閣下の話では貴族令嬢のように仕立てろとの事だったので、影の中でも高位の令嬢である者に指導させる。
 少女は不満そうな顔しながらも、脳内で己にとってお目出度い妄想で答えを出したのか、ハッとしてしばらく無言になった後、人がったように熱心になった。
 平民でも凄腕商売人の孫でポテンシャルは高かったのか、水を得た魚のようにぐんぐんと吸収してモノにしているようだ。

 定期連絡を閣下に入れる為に呼び出されたオレはその事を報告すると、閣下は「そうか。そのまま手を抜かずに素早く仕上げるように。早ければ早い程助かる。」
 と言われる。

「子爵令嬢レベル程度には仕上げてあります。勿論所作となると男爵令嬢がいい所かもですけど……閣下はどの程度をお望みですか?」
「せめて侯爵レベルといったところか。叶うなら皇族レベル」
「……それはまた、年単位の時間が掛かると思われますが(皇女殿下レベルは無理無理! 侯爵令嬢も無理! ギリギリ子爵令嬢以上伯爵令嬢以下ってとこだぞ……)」
「姫様の影武者みたいなものにする予定でな。」
「!(何ソレ! めっちゃくちゃ羨ましい役! オレが女だったら立候補したい……)」
「アレス様がな。罠を張るらしいのだ。その為に平民少女に色々仕込んで欲しいらしいと、陛下が。」
「成程、承知しました。(王命みたいなモンじゃないですかー!? ヤダー。最重要任務に昇格した……失敗したらオレの責任とかじゃないの!? オレ、終わったわ。)」
 背に冷や汗を垂らしながら、表情だけは神妙な顔を保つ。

 閣下はオレの方をジッと凝視する。
 その重い圧にオレの喉がコキュンと鳴った。

「それでな、今回はお前たちにかなり無理を言っているという自覚が陛下にはあってだな。無論、私も。特別褒章というものを出される。」

「はい。(マジかー、金一封とかかなー、無いよりはやる気が出るから有難い)」

「褒章はな、姫様手製の品々をな用意している。」

「えっ!?(姫様手製の!? 品々って事はひとつじゃないって事!?)」

「嬉しかろう? 私も欲しい、今からお前たちの任務を肩代わりしてもいいなとも思ったのだが――――」

「いえ、閣下のお手を煩わせる程ではありません! 身命を賭して、何としてでも、あの平民の少女の淑女レベルを限界地点ギリギリまで引き上げて見せますっっ!」
(拷問に近いスケジュールを組んででもやり遂げてみせる!)

「わかりやすいな。」

「閣下、これ以上なければ、この場を辞させて頂き、早速皆に報告後、あの少女の訓練スケジュールを組み直して来ます!」

「あ、ああ……いっていい。」

「御意! 失礼致しますっ」

 行きの足取りの重さは何だったのかという程に足取り軽く鼻歌でも歌いそうな様子で影は去って行った。
 いつもは影に溶け込むように消えるが、余程嬉しかったのだろう。普通に扉を開けて退室して行った。

「コードネーム翡翠だったか。最後は花が舞う程ご機嫌になってたな……」

 アンナは翡翠の去っていった扉を見つめ、苦笑した。


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