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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。
兄が関わると何か違う収穫になる。
しおりを挟む「まぁ、陛下も参加して下さるの! 私が収穫している姿を見て羨ましくなったのですね、ウフフ……」
「あ、ここは私が作業しているので、陛下はあちらの列でお願いしますね。」
「えっ、こんなの魔法でパパっとやってしまう? それだと収穫の楽しみがなくなるではないですか! 手作業で丁寧に抜いてどんな人参が獲れたか見る楽しみというものもあるのですよ!」
「時間が勿体ない……? そんな事仰るなら陛下はもう参加しないでいいです!」
アンナは思った。
姫様が楽しそうなのは見ていてこちらも嬉しいのだが、皇女である……。
貴族が自分の庭を庭師にやらせず手ずから庭いじりする事すら眉を顰められるというのに、その貴族より遥か上の身分の皇族が、庭いじりどころか農作業である。
農民の少年と楽しそうにしているのを見てすぐに姫様の所へ向かった陛下はいつもの事であるが、間に入って無理矢理作業に参加するにしても違う方向性で姫様を怒らせて参加拒否されている……。
そもそも、皇帝に農作業されても農民の方達が怯えるので止めて頂きたい、が。
クラウディア姫様は自分が皇女だという事を例外にしがちであるとアンナはため息が止まらない。
これから少し厳しく自覚を促していかねば、とアンナは思うのだった。
正直、クラウディアは困惑していた。
シュヴァリエ、そういうキャラじゃないだろう、と。
そもそも農作業を視察しに来るって聞いた時も「えっ、話だけ聞くとかで済ませそうなタイプなのにわざわざ見に行くの?」と思った、正直。
ゲーム世界のシュヴァリエは殺戮の大天使です宜しくね的な物騒な血濡れ皇帝だったし、農作物がある畑等も戦争で焼き払っている側だった。
自国ではなく他国を侵略する際の行動だったけど、それは兵糧食を生産させない為に元を絶つというような、容赦ないキャラだった。
現在は無敗の皇帝とか言われて血には濡れないで他国を制圧している。
(シスコンも拗らせているし血には濡れずとも違う意味で物騒なキャラに仕上がっている。)
少し思うところはあるが、ゲームキャラとは違ってきているのは確実。
もうちょっと色々思い出せたらなぁ…と思うクラウディア。
ゲーム知識があったって、あまり活かせず。
ただ過保護な程に守られて、日々を平和に過ごしている。
農作業したくなる程に穏やかな人格者になってきているのかもしれない。
魔法で収穫するっていうから頭にきて収穫禁止にさせたけど、させてあげた方が情操教育的にいいのかしら。
そもそもシュヴァリエが変わったのって、私が無意識に情操教育を成功させていたのかもしれないわ。
特別に何かしてたっ訳ではないけれど、多分それが良かったのよ。
このままいけば、きっとシュヴァリエは賢帝になれるわね。
頭も良いし、魔法も腕っぷしも最強だし、地位も顔もいいから嫁候補には最上の方が選り取り見取りだしね。
考えごとをしながら淡々と人参を収穫するクラウディア。
横に居る少年が「こ、皇女殿下!? 後は私達が、い、致しますので!」とオロオロしているのをスルーし続けているようで悪いが、クラウディアは黙って次々と人参を引っこ抜いて行く。
無心で引っこ抜いていた為、隣にシュヴァリエがしゃがんでいて、クラウディアが引っこ抜いた人参を受け取って横に放り投げている事に気付いていない。
クラウディアがこのことにいつ気付くのかニヤニヤしながら見つめていた。
それから数十分後、人参が埋まっていた一列を抜き終え、手に付いた土を払いながら立ち上がろうとしたクラウディアは、隣で人参を受け取りニヤニヤしているシュヴァリエを見つけて悲鳴をあげた。
収穫した獲れたて人参を試食する機会はなく――――
また別の地へ移動の為に馬車に乗る。
「お兄様は性格が悪いです。」
「いつディアが気付くのかと思うと笑いが止まらなくてな。」
「私が皇帝陛下を顎で使ってるかのように周囲には見えたでしょうね!」
「それはないだろう。お前の何処までも轟きそうな甲高い悲鳴で誤解があっても払拭されただろうな。」
「今日はやけに意地悪ですね……。」
「農民とやけに楽しそうなディアが悪い。」
「ただ人参引っこ抜かせて貰ってただけですけど……。」
「ふん。」
次の視察先は、少し悩ましい土地らしい。
開墾はしてみたが岩が多く、土も固い為に作物が育ち難いそうだ。
難しい土地かぁ……どういうの今まで植えていたのかな。
クラウディアは作物と土壌に対しての知識は余りない。
以前アドバイス出来た作物だって、たまたま知ってたからに過ぎない。
専門家が居れば色々聞けそうだけど、この世界は作物の専門家というものは居ない。
実際に作って育てている農家の人が専門家かもしれないけれど、
強い作物を作る為に交配を重ねたり、土地の成分を分析して土地に合う作物を考えたりっていうのはないのだ。
とりあえず種を植えて、上手く育つかどうかは調べるらしいけど。
農家の人達だって代々我が家はこの作物を育ててきたから。って感じで今もその作物を育ててるだけなのだ。
固い土地や、痩せた土地でも育つ、いい作物が何かあったんだけど……
思い出せないんだよねぇ……ほんと私の脳ってポンコツ脳なんだから。
馬車内ではまたシュヴァリエは書類を読んでいる。
時々書類にサインしている所を見ると、仕事なのだろうなと思う。
今回のクラウディアはアンナに渡された、次の土地の資料を手に持って読んでいた。
何かいい案が浮かばないかと読みながら、頭を捻り悩む。
多分、芋系が育てられると思うんだけど……確信が持てないのよね。
サツマイモってどういう土壌で育つんだっけ……。
サツマイモって暖かい地方が産地のイメージだから、寒い地方では育ちづらいって事だよね。この領地は比較的暖かい所らしいから、絶対に無理って訳では無さそう。
植える時に土を深く掘れる場所で、風通し良く水捌けがいい土壌で育つんだったかな。
スイートポテトが大好き過ぎて、ベランダガーデニングで芋作れないか試そうと思って調べた事あったのよね。
色々無理だって思って速攻諦めたけど。
次に向かう土地がそれに適しているといいなぁ。
芋たくさん育てて貰って、お裾分けして貰うのってダメかしら。
難しい土地で育ってくれる作物を考えるというよりも、自分が食べたい作物を植えてくれないかしら、と結局は煩悩まみれになるクラウディアであった。
馬車が到着し、エスコートに差し出される手にいつものように自分の手を乗せながら、クラウディアは「芋づくりに適した環境でありますように」等ともはやスイートポテトの為にといった気持ちで、馬車から降り立った。
開墾はしているが、ここで畑作りは厳しそうだとばかりにごろごろと大きな岩があちらこちらに点在している。
「ここからは村まで少し歩きます。」
伯爵が心配気な表情を浮かべている。
「大丈夫です。今日は歩きやすい格好ですし靴も頑丈なブーツなんですよ!」
「皇女殿下は勇ましいですね。」
伯爵が嬉しそうに笑う。
「いざとなれば私が抱えるから問題ない。」
いつもの過保護なシュヴァリエ。
「体力作りも兼ねてますから、今日はダメです。」
最近色々と肉がついてる自覚はあるし、運動させて欲しい。
「歩いて決めよう」
岩が多いという事は道が整備しづらいという事。
不安定な道を歩くのは体力を使う。
過保護に守られた皇宮暮らししか経験のないクラウディアより、戦争経験も野営経験もあるシュヴァリエの方がこういう事には詳しいのである。
では、と先導し始めた伯爵の後をついて歩き出す。
その前後左右に少しの距離を取りつつ護衛騎士が二人を囲みながら歩く。
クラウディアは不安定な道を歩き出しながら「これはカロリー消費も筋トレも出来そうで一石二鳥!」と考えているのだった。
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