転生したら血塗れ皇帝の妹のモブでした。

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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

クラウディアの憂い。

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 高潔で孤高の大天使様の容姿の美少年が、馬車内で大淫魔様に変貌して滴る色気を大盤振る舞いするとは想定外。
 クラウディアは大混乱するやら、血圧が急激に高騰して鼻血の心配をしたりして遂には電池が切れたロボットのように活動限界を迎えて、ぐったりとしてしまった。

 そんなクラウディアを見て原因の存在が大変心配してしまい――――

 現在、その原因に膝枕をされている。

 何故。

「予定する場所まで着いたら起こしてやるから、少しでも寝ておくといい。」

 眠くなくて刺繍で夜更かししちゃったという話を思い出したのか、睡眠不足でぐったりしているのだと判断されたようだ。

 その優しさが今は辛い……ドキドキが止まらない……。
 シュヴァリエの善意が私を殺しに来ている……。

 けれど、眠くなるようにと髪を優しく撫でられ後れ毛を耳にかけられたりと色々されてるうちに、段々と落ち着いてきた。
 膝枕の現状、シュヴァリエの温もりが頬に伝わっている……と、気付いた時、身体の力が抜けてホッとしてしまった。

(何だかんだと一番信頼してるのかもなぁ、時々物騒になるこの兄の事)

 クラウディア至上主義であるという事が段々と理解してきている。
 重度のシスコンを患ってしまって、元々婚約者候補ですら持ちたがらず周囲が困り果てている所に、この病。
 お嫁さんどうしたらいいの世継ぎはどうするの問題が更にヤバイことになっているであろう。
 まぁそこは妹の私が口に出す事ではないので、周囲とシュヴァリエに頑張って貰うしかない。
 あと数年もすれば、私も適齢期に入ってしまうのだ。
 シュヴァリエと同じように婚約者候補すらいないので、まずは候補探しからされるのだろうか。
 その前に、私、死なないといいけども……いい関係を築いているのでシュヴァリエにがきっと色々何とかしてくれると思いたい。

 他力本願である。

 それはそれとして、さっき見たマリーナさんってどうなったんだろう……。
 耳の後ろをスリスリと指の腹で撫でられながら、気持ちよさにクラウディアがうとうとしてしまう。
 眠りに落ちる最後に思ったのは「不敬な人なのかもしれないけれど、マリーナさんに凄く酷い事はしないで欲しいな……」だった。

 その考えをうっかり口にしながら眠りに落ちたクラウディア。

「ふむ……」

 その言葉をしっかりと訊いたシュヴァリエは、理解出来ないなと首を傾げる。
 しかしクラウディアが願っているのならば……と思い直し、思案するように口元に指を当て何かを考え出した。



 ――――休憩で立ち寄った街、バーステリア。

 白目を剥いて失神しているマリーナを騎士に命じて馬から降ろす。

「情けない。姫様に突撃する程に無謀で無鉄砲で愚かな強い精神性はどうした。
 もっと頑張れると思ったがこんなものではないか。」

 アンナがバカにしたように失神したマリーナに告げている。
 周囲に居るクラウディア専属騎士達は見慣れた姿だが、シュヴァリエ専属騎士達はアンナが怖くて仕方がない。

 弱き者を助ける騎士道に溢れた騎士達は、そのぐちゃぐちゃな情けない姿になった少女に同情心を持っており「一般人の平民少女なのだから当然では……何処を目指させようとしているのだ可哀想に。」と思っている。

 逆にクラウディアの専属護衛達は「姫様に不敬を働いたのだから、仕方がない。即処刑されなかっただけでも恩情かけたのではないか?」と思っていて、教官のアンナに毒され中々鬼畜思考に教育されてある。

 休憩場所に用意されたのは、高級宿屋。
 馬や馬車を所定の場所へと移動させ、騎士達も休憩を取ろうと宿屋内に入る準備をしている。

 シュヴァリエとクラウディアは既に宿屋の用意された一室へと移動している。
 クラウディアが爆睡したまま起きる事が無かったので、運ぼうとする専属騎士を断りシュヴァリエがお姫様抱っこで運んで行った。
 宝物のように抱える姿は大層幸せそうな様子だったという。誰がとは言わないが。

 取り敢えず気絶した平民女は騎士達に任せ、クラウディアの様子を確認しようと滞在する部屋へと向かうアンナ。
 ノックをして許可を得て入室すると、シュヴァリエが唇に指を当て「静かに」のジェスチャーをして立っていた。

 キンッと硬質な音を立て防音結界が張られる。
 シュヴァリエが予備動作や詠唱もなく強固な結界を張った。
 アンナは血反吐を吐く程に努力して今のアンナになったので、魔法の気配にも敏感になった為、結界を張られると音が聞こえる程度には能力が高い。

「陛下、ご報告があります」
 結界を張られた事に安心してアンナが切り出す。
 正直、同室にいる姫様に聞かせたい内容ではない。

「ああ、訊こう」
 シュヴァリエが頷くと共にアンナは出発時からの事を説明し始めた。


 簡潔でありながら少しの怨嗟が混じりつつ説明を終えたアンナ。

「俺の本心は排除一択なのだが―――ディアがな……」
 少し弱ったなといったように眉が下がる。

 常に冷たい表情のシュヴァリエには珍しい表情である。
 アンナだってクラウディアが傍にいなければ、それ以外の表情を見る機会など永遠になかったように思える。

「寝言で余り酷い事はして欲しくない事を言っていたのだ……」
「姫様に知らせ無ければいいのではないでしょうか。何れ姫様もあの女の存在など忘れましょう。」

「商会の孫娘が消えて、絶対に知られずに済む訳がない事くらいはお前も分かっているだろう? かといって赦せば、クラウディアに対してこのような行動を平民如きが取ったとしても赦されると勘違いする者が出る。貴族だったらもっと強引に出ても赦されると侮る者もな。無罪放免は出来ない。」

「そうです。では、如何されますか?」

「商会の会長の孫娘、愚かで無鉄砲であるが強心臓、お前が鍛えて諜報員にするのはどうだ?」
 シュヴァリエが人の悪い皮肉な笑みを浮かべた。

「――――それは……」

 それは丸投げというのではありませんか、という言葉を寸での所で呑みこむ。
 アレが使い物になるか? ならないだろう。
 ただ陛下に近づきたいが為に姫様を利用しようと搦め手を使ってこようとしたが、元々の知能が高くないのか、その計画はかなり杜撰であった。
 そんな女を叩き上げて使い物にするには骨が折れるであろう。

 しかし、この国の最高権力者を前に臣下であるアンナに否やという権利などない。

「…………承知、致しました。」

 激しい葛藤を思わせる声色で諾の返答をする。

「使えぬなら、処理せよ。」

 アンナは皇帝然とした冷たい声色に伏せていた目線を上げた。

 掌中の珠であるクラウディアに降りかかる何ものにも容赦しないと決めていた。
 桁外れの力を持つ魔王のような少年王の姿が其処にはあった。
 けれど、クラウディアの心を壊してまでする事ではない。
 出来るだけならクラウディアの憂いは取り払ってやりたい。
 この世界で唯一失いたくない存在、それがクラウディアだ。

「御意。」

 アンナは姫様の憂いの為にアレを鍛えてやろうと決意する。
 強制はしない。
 したくないなら相応しい罰が待っているだけだ。
 選ぶのはあの平民の少女。
 影達はアレを既に嫌い始めているから、間諜は難しいだろう。

 どうするか――――

 シュヴァリエに一礼して部屋を去りながら、アンナはアレの使い道をアレコレ考え始めるのだった。
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