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第二章 皇帝はシスターコンプレックス。

ゲームではなくて現実だから。

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今は、戴冠式から半年…。

乙女ゲームの物語に倣う様で、急に怖くなった。
しかも、膨大な魔力で圧倒的な強さを誇るシュヴァリエは、戦争の前線で戦っている。
敵の命を屠っているのだ。

私は――――不安なんだと思う。

屈託なく笑ったシュヴァリエが戦争を経験していくにつれ、ゲームでの様な冷酷無慈悲なシュヴァリエに、変化していく気がして…
凱旋して戻ってくるシュヴァリエを、出陣する時と変わりはないか必死に探してしまう。

勿論、勝利を掲げ戻る姿にホッともしている。
シュヴァリエがどんなに強くとも、やってる事は殺し合いだ。
何が起こるかなんて誰にも分からない。

いつも出陣するシュヴァリエを見送る時は、不安でいっぱいになる。
もう二度と帰って来ないかもしれない…もうこの姿を見れるのは最後かもしれない。
次に会う時は物言わぬ姿なのでは…と。


私の不安でいっぱいな事は、シュヴァリエにはお見通しで、
出陣前夜はいつも以上に優しい。
泣きそうになるくらいに優しいから、時々泣いてしまって困らせてばかりいる。
笑って送り出したいのに、弱くて嫌になる。

5才だからと言ってられない。
幼子の様な素振りで誤魔化せない。戦争とは何をするか分かっているから。
――――だって心は5才じゃないのだから。
乙女ゲーム設定通りなら、戦争の日々は三年で終わる。
私も強くならなければ。






――――戦争が始まって、一年が経過した。


「もう止まる事は出来ない。――――勝つか負けるか、蹂躙するかされるか。勝てば官軍負ければ賊軍だ。」
涙が止まらんない私を見て、そっと抱き締めてくれながら話してくれた。

「……泣くな。必ずお前の元に戻る。
いつもすぐ戻ってくるだろう?俺を誰だと思っている。
ヴァイデンライヒ帝国皇帝シュヴァリエ・ヴァイデンライヒだぞ。
裏で何と呼ばれているか知っているか?
戦場の魔王……ださくて笑える名だろ?己が弱いのを認めず、俺を魔物扱いだぞ。
それに、お前が刺繍して持たせてくれたお守りが、いつも俺に力を与え護ってくれている。」

「お守り、また作ったの。持っていってくれる?」
「そうか。どのお守りも大事にしている。もう5個目だな…」
シュヴァリエが、ふっと笑ったのが胸の振動で分かった。
シュヴァリエの心音が心地良く安心する。

「もう1つの隣国、ソニエール王国は属国にしないことにした。あの国の王とは宰相が深い付き合いが長いらしくてな。こちらに仕掛けてくるどころか、色々便宜を図ってくれている。
――――利口な国だ。敵に回してはいけない国を良く分かっている。
属国ではなく同盟を組む事になった。
明日の出陣する戦いをさっさと片付けたら、ソニエール王国から同盟調印の為に帝国に外交担当の者が派遣されるという事らしい。
ソニエール王国もさっさと同盟を組んで安心したいんだろう。
やけに乗り気で急かしてるそうだ。いつ俺が牙を剥くか心配なのかもな?」

シュヴァリエがまた悪い顔で嗤っているのか、クックックと胸が振動している。

(シュヴァリエの強さって圧倒的らしいからな…)

魔法攻撃は確かに強いけど、それを行使し続ける莫大な魔力量がないと一過性の攻撃力だ。
魔道士部隊が入れ替わりで撃ち続けれは断続的には可能だ。
けれど敵も馬鹿じゃないので、その部隊を叩いてくるのだ。

けれどシュヴァリエなら1人でいける。
縦横無尽に動きながら。
その機動性と撃ち続ける事が可能な圧倒的な魔力量、魔法攻撃力を高める魔力の質。
高位の攻撃魔法も習得しているセンス。
どれをとっても最強なのだ。
まして、この国はこの世界最大の魔法大国だ。
前皇帝の様な遊び呆けてる能無しならともかく、現皇帝はシュヴァリエ。
十歳と舐めて掛かった国はあっという間に属国にされてしまった。

そんなのが敵になるなんて恐ろしい事この上ない。

ソニエール王国が急かすのも分かる気がする。
シュヴァリエの気が変わったら、やはり蹂躙されて終わりと思っているんだろう。


ソニエール王国…乙女ゲームの舞台となった国。
ゲーム開始まで、後7年~8年。

どんな人が来るんだろうなー。調印式。
やっぱり王様とか来るの?
流石に王様は来ないよね?代役立てるよね?王族が来るのかな…?


シュヴァリエが戦争の日々を終えるまで、後2年。

そろそろ泣いてばかりいないで、シュヴァリエを支えられる様にならなければ。

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