上 下
12 / 105
第一章 転生しました。

模擬戦が始まるよ!

しおりを挟む
 金網越しにキラキラオーラが眩しい近衛騎士団の騎士達を眺める。

 1時間程続いた素振りを止め、今度は模擬戦の様だ。

 1時間も休む事なく素振りを続けて、この後の模擬戦で腕に力が入るの!? と素直に不思議に思い、カルヴィンさんに質問した。


「きしさんたちは、ずっとうでをうごかしていたのにいたくないのですか?」

 幼さを強調する為にわざと幼稚な話し方をする、私。
 正直、話ずらい事このうえないが…
 不安定な立場だというのに妙に勘ぐられて注意が向くのは怖いし、このまま幼くてちょっと言葉に不自由そうな幼女を演じ続けるつもり…多分。

 んー、よしよし。
 これでカルヴィンさんにも幼さをアピール出来た。
 話すのも拙い幼い皇女、庇護欲を掻き立てられても、どうこうしようとは思わないだろう。

 カルヴィンさんとアンナと三人娘の表情が、非常に微妙なものを見ているような、複雑な表情になった。

 ――――ナゼ?

 クラウディアが急にまた頭の弱い子の振りをした事に対する謎について、思う事がある顔なのだが、クラウディア本人は至ってバレてないと思いこんでいる。

 ????を並べた表情のクラウディアに、

「姫様は……急に独特な話し方をなされるのですね。
 不肖カルヴィン、姫様にそのような顔をさせてしまい、大変申し訳ないです。
 聡明さと幼さ、その2つを合わせもつ方だと、しっかりと認識致しました。
 以後、このようなお顔を姫様にさせる事のないよう精進致します。」

 と、胸に留める事をしない実直なカルヴィンが謝罪する。

 周りは「えっ、そこ突っ込むの!?」である。

 ますます意味がわからないといった顔をするクラウディア。

「ああ、先程の質問ですが…騎士達は全く疲れを感じておりません。
 あの程度の鍛錬で疲れる様では、まず実戦では使い物になりませんので。
 実戦に休憩などは無いのです、常に動き続けその間も思考はクリアにしつつ相手の動きの次の次を読み動く、それが騎士ですから。
 その為の毎日6時間の鍛錬し、衰える事のないよう研鑽していますので、
 姫様がご心配なさる事はないのですよ。」

 カルヴィンの熱い説明をふむふむと頷きながら真面目に耳を傾ける。

 ――――それもそうか。実戦ではずっと打ち合う事もあるし、斬りつけ続ける事もあるもんね。
 その中でただ打ち合うだけではダメってこと。
 脳が判断する動きに身体がすぐに反応するように鍛錬してるんだ。
 そして、そんな体力も反応速度もない騎士は敗ける。
 命を扱う職業は、本当に厳しい。
“腕が疲れないんですかぁ?”なんて愚かな質問だった…
 が、愚かなところが幼さを感じるだろうし、気にしないでおこう。



 張り巡らされた金網越しではあるけれど、クラウディアの目の前では模造剣で打ち合う逞しい騎士の姿。
 躍動するしなやかな筋肉、剣と剣が触れ合うリズミカルな打撃音。
 剣と剣が触れ合って高い音を立てる。
 距離を取り、また近づき。背後に周って斬りかかるのをすぐに反転して剣で受け流す。

 凄いなー、カッコイイなー、絶対ダメだと言われると分かってるけど私もやってみたい。剣とか習うのダメだよね? 皇女だもんね?
 残念だなー、転生するなら皇子がよかった。
 あ、皇子だったらお兄様に殺されてたかもしれないから、皇女で良かったのか。
 うんうん、命があるだけラッキーと思う事にして剣を習うの強請るのは止めておこう。

 打ち合う両人も、美貌の青年二人。
 1人は艷やかな胡桃色の髪を後ろでひとつに束ねた青年、もう1人は短めで癖のある藍色の髪を無造作に流しただけ。
 ――――どっちもいいな。


 チラリと3人娘を見る。


 3人とも模擬戦を見ていたけど、目に熱っぽいのは無し。

 素敵だと思うんだけど…もっとムキムキがいいのかな。
 ゴリマッチョ的な?

 3人娘よ。私は細マッチョの方が好きです…。

 護衛は目の保養出来る人が1人居れば我慢出来るかなぁ…後の二人がゴリマッチョでも。

 そういえば、そもそも何人選ぶんだろう?

 私、3人の予定だったけど…何にも人数の事アンナには言われてなかった。

 もし1人しか無理なら、私好みの細マッチョにさせて貰う。

 異論は受け付けるけど、認めない!


 神妙な顔になったクラウディアにアンナが尋ねる。

「姫様、誰か気になる方はおりましたか?」

「ねぇ、アンナ。何人までならだいじょうぶなのー?」

 丁度いいタイミングでアンナが話しかけてきたので、ついでに気になったことを聞く。


 ワッ!と歓声が響き、青に少しのグレーを混ぜたような落ち着いたサックスブルーの髪色の青年? 少年…? が勝利したようだった。

 汗に濡れた頬を肩側にあるシャツでぐいっと拭う仕草が色っぽい。
 持ち上がったシャツにつられて、鍛えられた腹筋がチラリと覗いた。

 ――――ごちそうさまです。

 勝利に喜び片手を空に向かって突き上げた。
 あどけない笑顔は太陽のように明るく、キラキラと輝いていた。
 キュン!と鳴る胸を小さな手で押さえ、視線はサックスブルーの彼からぴたりと離れない。

 アンナはクラウディアの目線を追い、あの方ね…と候補の1人として頭にインプットする。

「護衛人数は多すぎても少なすぎてもいけませんが、交代制で6名程を取り敢えず予定してますよ。」


 アンナの声でサックスブルーの騎士様にお姫様抱っこをされる妄想から現実へとハッと戻る。脳内お花畑から引き戻されたクラウディアは、

「わかりました。その人数以内で選んでおきます。」

 ふにゃふにゃした顔を、皇女とはこんな顔とキリッと引き締めて答えた。

 アンナは、クラウディアが釘付けになっていた騎士は必ず入れてあげよう。
 実力が足りないならば、こちらが鍛錬させ力の底上げを図ればいいだけの事だと思うのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...